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069.お兄ちゃん、お風呂に入る

 それから試験までの10日間は、瞬く間に過ぎ去った。

 学生として、学校生活と並行しながら、剣の修練にひたすら励む。

 少年漫画の修行パートさながらに、毎日、早朝と下校後にひたすら特訓を重ねた僕の腕前は、それなりには向上したことと思う。

 まあ、あれだけ死ぬ思いで訓練したのだから当然であったほしい。

 スイッチの入ったアニエスは、本人の言う通り、鬼に他ならず、今までの彼女に如何に雇い主に対する遠慮があったのかわかろうと言うもの。

 毎日ぶっ倒れる寸前まで実戦形式で扱かれた僕の身体には、無数の青あざ、手にはマメがいくつも出来ていた。


「こ、これだけやれば、さすがに……」


 試験前日。

 疲れを残さぬようにと、少し早めに練習を切り上げた僕は、寮にある湯場で身体を洗っていた。

 備え付けの大浴場は、日本人的感覚がまだ残りに残っている僕にとっては、非常にありがたい癒しスポットだ。

 壁に備え付けられた鏡で、身体の傷を確認してみる。

 うーん、やっぱり青あざとか小さな擦り傷とかいっぱいだなぁ。

 諸々の事情もあって緊急時以外には、あまり白の魔法に頼らないようにしているのだが、試験を控えた今日ぐらいはあとで傷口の治療をしておいても良いかもしれない。

 そんなことを考えていると、いつしか無意識に自分の顔をマジマジと眺めていた。

 こうやってふとした瞬間に思うのだが、やっぱり僕って、かなり可愛んだよなぁ。

 いや、どちらかというと、最近は綺麗だな、と思うことが増えてきたように思う。

 主人公であるルーナのライバルとして生み出された悪役令嬢セレーネ。

 容姿だけならば、この世界でもトップクラスなのは間違いなく、美貌を褒められた経験は枚挙に暇がないほどだ。

 顔立ちだけではなく、最近は身体のほうも成長期。

 2年前の時点では、まだまだ少女と言ってよかった僕の身体だけど、今では、年相応に成長……いや、むしろ少し発育が良いくらいになってきたように思う。

 身長は、この世界の女子の平均よりやや高めで、ルーナとは頭半分以上に身長差がある。

 胸もお尻も女性的な丸みを帯びてきて、そろそろ"女の子"というよりは"女性"と言った方がしっくりくる体型になってきたかもしれない。


「とはいえ、さすがに自分の身体に欲情したりはしないけどさ」


 器量の良さだけ見れば、このセレーネの身体は間違いなく傾国の美女といっても差し支えないほどのレベルなのだろうが、生憎記憶を取り戻す以前に12年も付き合ってきた身体だ。

 記憶が蘇ったばかりの頃は違和感こそあったが、今では、この身体こそ自分の身体だとはっきりと自覚している。


「レオンハルトやエリアスも、僕のこの身体を見たいと思ったりするのかな……って!?」


 いや、何を口走っているんだ!?

 自分の身体を見た攻略対象達の反応を想像しようとするなんて、ますますもってどうかしている。

 湯船に入る前から逆上せてるんじゃないか、僕。

 近くにあった桶を取ると、僕は冷水を頭からひっかけた。

 しびれるような刺激が首筋を中心に全身へと広がる。

 ふぅ、ちょっとは落ち着けただろうか。


「セレーネ様」

「うおわっ!?」


 いきなり背後から声を掛けられ、振り向くと、そこにいたのはタオル一枚を身に纏ったアニエスだった。


「心頭滅却ですか?」

「そ、そんなところです」


 冷水を浴びたことを曲解したアニエスにとりあえず同意しておく。

 いや、それにしても……。

 薄いタオル一枚だけで身体を隠したアニエス。

 今年18歳になった彼女は、まさに美しさの盛りとでもいったところで、本当に綺麗だ。

 アッシュブロンドの髪は言うまでもなく綺麗だし、顔立ちだって、どこぞの貴族令嬢と言っても通用するだろう。

 騎士ゆえに筋肉質なところはあるが、出るところは出ているし、何より鍛え上げられたシャープな肉体にはアスリート的な格好良さも感じられる。

 いつしか僕は、ごくりと唾を飲み込んでいた。

 うん、綺麗な女の子に反応してる。僕はまだまだ男だ。


「セレーネ様、お背中お流しさせていただいても?」

「ええ、もちろんですわ」


 実は、アニエスがこうやって浴場にやってくるのは初めてじゃない。

 屋敷にいた頃から、ふとしたタイミングで、時折僕の背中を流しに来てくれる。

 貴族令嬢の中には、自分の身体を使用人に洗わせるような者もいるが、僕はそれが恥ずかしくて、基本的にはいつも自分一人で入浴している。

 アニエスが背中を流してくれるのは特別な時。

 大事なイベントの前日なんかに、彼女は何気なく現れてくれる。

 洗い場で、椅子に座った僕の背中を力強くも丁寧に磨いていくアニエス。

 ついさっきまで容赦の欠片もなく、僕を滅多打ちにしていた人物とはとても思えないほどの繊細さだ。

 背中越しに感じるアニエスの呼吸。

 ふと、そのリズムが途切れたかと思うと同時に、彼女の柔らかい声が僕の耳朶を打った。

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