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067.お兄ちゃん、謎の仮面紳士を見つける

「ふぅ、意外と足が速いんだから……」


 ルーナの背を必死に追いかけることしばらく。

 広大な学園内の森林の中へと足を踏み入れた僕は、見事にルーナの事を見失っていた。

 しかし、こんな場所に何の用があるのだろう。

 校舎からも寮からも遠いこの辺りは、人目につかず、特別な用でもなければ決して来ることはない。

 まさか、とは思っていたが、本当に逢引の可能性が高まってきた。

 慎重に木々の間を進む。

 見失ったのはつい今しがた。

 これ以上走ると、もう間もなく外壁へと到達してしまうし、ルーナがいるのはこの近くに間違いないだろう。

 警戒しながら、キョロキョロと周りを見回しつつ歩いていると、ふと小さな話し声が耳に届く。

 僕は慌てて大木の後ろに張り付いた。

 そのまま少しだけ身を乗り出し、様子を確認すると、そこにはルーナの姿があった。

 そして、その傍らにいるのは……ダメだ。枝が邪魔をしてはっきりと顔が見えない。

 男子の制服を着ているのは間違いないが、やけに派手な深紅の外套を羽織っている。

 あれが、ルーナの逢瀬の相手……!?

 必死に聞き耳を立てると、わずかばかり二人の会話が漏れ聞こえてきた。


「遅かったな」

「ごめんなさい! 今日は聖女試験について司祭様から説明があったもので……」

「そうか。いよいよか」

「はい!! 本当に騎士(ナイト)様がおっしゃっていた通りの内容でした!!」


 騎士(ナイト)様? おっしゃっていた通り?

 何なんだ、この会話……。

 少なくとも、思っていたような関係ではなかったようだが、にわかにきな臭くなってきたぞ。


「どうやら情報は確かだったようだ。わかっているとは思うが、お前には、あのセレーネ・ファンネルに勝ってもらわねばならない」

「はい!! 私頑張ります……!! それがセレーネ様のためになるならば!!」


 燃える瞳で、謎の男相手に大きく頷くルーナ。

 なんだ。ますますわからない。

 僕のために、ルーナが聖女になる……?

 何を言っているのかよくわからないが、あれが彼女のモチベーションが唐突に上がった理由なのは間違いない。

 とにかくもっと情報が欲しい!

 さらに聞き耳を立てていると、2人は徐に距離を近づけた。


「えっ、えっ?」


 思わず身を乗り出す僕。

 もはや二人の距離は密着と言っても差し支えなかった。

 身体を身体を寄せ合い、今にも抱き合いそうな距離感だ。

 見つめ合う形で、ルーナはなんだか緊張した面持ちで、男の方をわずかに見上げている。

 ちょい待って。

 えっ、やっぱりこれって逢引なの……!?

 自分でもよくわからない感情にさいなまれつつも、あわあわと二人の様子を見守っていると、次の瞬間──


 バシィイイン!!!


「えっ……?」


 超近距離にいた二人の身体がいきなり離れた。

 いや、違う。

 お互いに手にした木剣をぶつけ合ったのだ。

 理解が追い付かない。

 逢引かと思ったら突然きな臭い話が始まり、かと思ったらやっぱり逢引っぽくて、でも違って、今はお互い木剣を手に相対している。

 そして、さらに僕の頭を混乱させてくれたのは、ようやく見えるようになった相手の男の顔だ。

 目元の部分を仮面で隠しており、誰だかまるでわからない。

 深紅のマントをなびかせ、木剣を携えた謎の仮面紳士。

 確か、騎士(ナイト)様なんてルーナに呼ばれていたが、いったいこいつは何者なんだ?


「いいぞ、ルーナ! 組み付かれた距離間での立ち回りも随分マシになったな」

「騎士様のご指導あってこそです!! いきます!!」


 そんな会話をしつつ、ルーナが駆け出す。

 速い。およそ熟練の剣士と見間違うばかりの速度で、駆け抜けながら剣を振り抜くルーナ。

 その姿は、ほんの2か月ほど前に、アニエスの元でダイエットしていたときの動きとはまるで違う。

 なんで、ルーナがこんなに強くなっているんだ……?

 もしかして、ここ一か月ほどの付き合いの悪さは、この騎士という人物に稽古をしてもらっていたのか。

 ますます訳がわからなくなる僕の目の前で、二人の稽古は熱を帯びていく。

 ルーナの実力も恐ろしく上がっているが、それを簡単にいなし、より正しい剣筋へと修正していくあの騎士という人物の実力も相当なものだ。

 いつの間にか、夢中になって二人の稽古を眺めていると、一瞬騎士の仮面越しの視線がこちらへと向いた。


「誰かいるのか?」


 まずい!?

 判断は早かった。

 相手がこちらへと確認にやってくる前に、僕は全速力で森の外へと駆け出していた。

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