066.お兄ちゃん、聖女試験に臨む
「──以上が、最初の聖女試験の内容です」
公爵家の儀礼室にも似た学内の聖塔の大広間。
並ぶのは、僕とルーナ。
そして、目の前で滔々と教会からの書簡を読み上げるのは、ルカード様だ。
初回の試験課題として提示された内容は、妹から聞いていた通りのものだった。
"力"の試験。
内容としてはこうだ。
今日から数えて10日後の昼。学園の祭事用の演舞場で、僕とルーナで剣術の試合を行う。
試合といっても真剣勝負ではなく、使うのは木剣だ。
お互いが木剣一本を武器に戦い、先に三本先取した方が勝利となる。
前世で言う剣道の試合のようなイメージだ。
「何か質問はありませんか?」
首を横に振る僕とルーナ。
「では、これで試験内容の説明を終わります。いきなりの事で、何分戸惑う部分もあるかとは思いますが、これも現聖女様から与えられた課題です。このカラフィーナ大陸に安息を齎す、真の聖女になるためにも、全力で臨んでいただきたく思います」
「はい、ルカード様。全力で臨ませていただきます」
「わ、私もです!!」
「宜しい。では当日まで、しっかりと準備をして臨んで下さいね。でも、決して無理はなさらぬように」
最後に、再び優し気な笑顔を浮かべたルカード様と別れ、僕とルーナは帰路についた。
「はぁ、なんだか、まだ実感が湧きません……」
横を歩くルーナは胸を押さえて、どこかボーっとしている。
「自分が聖女候補だということに、ですか?」
「そうです! 白の魔力を持っていると言っても、私、まだちゃんと使いこなせもしませんし」
これまでの関わりの中でも、おおよそそうではないかと思っていたが、やはりルーナはまだ癒しの魔法を使うことはできないらしい。
「セレーネ様は魔物だって浄化してしまえるほどに白の魔力を使いこなしてるのに……」
自信なさげに俯くルーナ。
実は僕にも懸念があった。
これまでルーナと親しくしてきて感じたことであるが、彼女は聖女になろうという気持ちなど全く持っていない。
むしろ、他の令嬢やルイーザ達と同じく、僕こそが聖女に相応しいと考えている節さえ感じられる。
魔力解放の儀で聖女としての才能を見出されてしまったがゆえ、こんな貴族ばかりの学園に通うことになってしまったが、本来の彼女はそれを喜ぶような性格ではないのだ。
だから、もしかしたら聖女試験が行われる段階になっても、彼女はそこにモチベーションを見いだせないではないかと考えていた。
そして、今の様子を見ると、その考えはどうやら間違っていなかったらしい。
だが、それでは僕が困る。
ルーナに聖女になってもらわなければ、僕がその補佐官に納まることもできない。
つまるところ、それは破滅エンドまっしぐらということに他ならず、僕としては、なんとかルーナに聖女試験へのモチベーションを高めてもらわねばならなかった。
そんなわけで、何かしら発破を掛けねば、と口を開こうとしたのだが……。
「でも、私頑張ります!! 頑張って、きっと聖女になってみせます!!」
「えっ?」
あれ、なんだか予想と違って、思いのほかやる気満々なんですけど……。
「ル、ルーナちゃん、そんなに聖女になりたかったの?」
「別に聖女になりたかったわけじゃ……あ、いえ、そうなんです!! 私、とっても聖女になりたいんです!!」
「そ、そうなのね……」
どこか様子がおかしい感じもするが、少なくとも彼女の試験に対するモチベーションは低くはないらしい。
その理由が何にせよ、僕にとっては非常にありがたい。
「わかりましたわ。でも、私だって負けるつもりはありませんから」
「えっ!? えーと……いえ、セレーネ様には悪いですが、私だって負けませんから!!」
そう言って、少年漫画のライバル宜しくお互いに握手をし合う。
「ええ、どちらが聖女になってもおかしくない。そう思わせるような試験に致しましょう」
「はい!! セレーネ様!!」
何だかよくわからないが、とりあえずテンションのままに、僕とルーナは熱い視線を交わすのだった。
その時、学園に夕刻を告げる鐘が音が鳴り響いた。
「あっ、もうこんな時間!? セレーネ様、私行くところがあるので!! 失礼します!!」
握手していた手をほどき、慌てて駆け出していくルーナ。
そう言えば、最近の彼女はいつもこんな感じだった。
「も、もしかして……」
ヒロインが忙しそうにしている時、それすなわち攻略キャラ達との逢瀬である。
今まであまりに関係が薄すぎて考えたこともなかったが、ルーナは攻略対象キャラの誰かと会うために、毎日早くに学校を出るようになったのではないだろうか。
僕も気づかぬうちに、いつの間にか攻略キャラと親しくなっていたとすれば、由々しき事態だ。
でも、だとすれば、それは誰だ?
フィンはないだろう。ルカード様も来たばかりだし違う。
となれば、レオンハルト、エリアス、アミールの誰かということになるが……。
どんどん小さくなっていくルーナの背中を眺めていると、僕の足は自然とその後を追って、駆け出していたのだった。
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