065.お兄ちゃん、司祭様と再会する
さて、ついに入学から3カ月が過ぎた。
日課も定着し、授業の内容も随分と本格的になってきている。
忙しいというほどではないが、それなりに充実感のある毎日だ。
休日はフィンも含めた4人で過ごすことも多くなり、なんだか普通に学園生活を謳歌できている気がする。
まさに青春だなぁ。
前世の学校では陰キャ寄りだった僕だが、こちらではむしろカースト的には最上位のグループにおり、特段クラスでも問題なく楽しく過ごせている。
ほとんど一緒に過ごしているせいか、周りの令嬢達からのルーナ下げも随分と落ち着いてきており、学校生活自体はまさに順風満帆と言えるだろう。
「と油断していてはダメなんだよな」
気を引き締めるように、僕は背筋を伸ばす。
そう、いよいよ僕の命運を左右すると言ってもいい、聖女試験が始まろうとしているのだ。
そして、その足音はすでに近くまで迫って来ていた。
今日の帰り道は珍しく一人だった。
というのも、ここしばらくルーナは何か用事があるということで、学校が終わるとそそくさと帰路についてしまうのだ。
そんなわけで、最近はもっぱらルイーザと2人での下校だったのだが、そのルイーザも何やら入学が遅れたことで必要な手続きが終わっていなかったらしく、今日は先生のところに行ってしまっていた。
久しぶりの静かな帰り道を堪能していると、道の向こうから何やら見たことがある顔がこちらへと向かってきていた。
「お久しぶりです。セレーネ様」
「まあ、ルカード様!!」
キビキビと歩いてきたその人物は、いつもの柔らかい笑顔を浮かべる。
アルビオン教会の巡回神父であり、僕の前世の記憶を呼び起こしてくれたルカード様だ。
彼の顔を見た瞬間、心臓がキュッとした。
別に恋してるとか、そういうわけじゃない。
ただ、ついに来たか、と思った。
僕はずっと、彼が学園にやってくるのを待っていたのだ。
何を隠そう、ルカード様はこの乙女ゲーム『デュアルムーンストーリー~紅と碧の月の下で~』の最後の攻略対象キャラだ。
でも、それだけじゃない。
実は彼こそが、教会本部の名代として、聖女試験の監督を務める試験官でもあるのだ。
「どうして、ルカード様が学園に?」
本当は知ってるのだが、ゲームのセレーネに倣って、とりあえず理由を問うと、ルカード様はその優しげな笑顔を湛えたまま丁寧に自分が学園に来た理由を説明してくれた。
よくよく聞くと、表向きには学園の客員講師として招かれたということになっているらしい。
聖職者として、若さに反する豊富な知識を備えたルカード様は、講師としても十分に活躍できることだろう。
それにこの容姿だし、きっと女子生徒達にはモテモテになるだろうなぁ。
レオンハルトやエリアスには、身分が違いすぎて、皆どことなく遠慮があるが、貴族ではなく、かといって平民でもないというルカード様の立場は、女子生徒達のワンナイトラブ欲求を満たすには、絶好の存在になってしまうやもしれん。
教師で聖職者とか学生の恋愛対象としては、背徳感ありまくりだしね。そういう方が燃えるんだよ、きっと。
ルカード様って、押されると弱そうなイメージがあるし、あんまりその眩しすぎる笑顔を振りまかない方が良い気がするわ。
「あの、どうかされましたか。セレーネ様?」
「あ、いえ……」
ダメダメ。いらぬ心配して、イケメンの顔をガン見している場合じゃない。
「それで聖女試験なのですが、第1回目の課題について、明日の午後、ルーナ様にも足を運んでいただき、お伝えさせていただきたく思っています」
「場所は、どちらに参ればよろしいのでしょう?」
「あそこです」
ルカード様が、指差した先。
それは学園の中央北側に位置する白亜の塔だった。
「学園の儀礼用の聖塔。今後試験内容の発表については、あそこで行うことになります」
「なるほど、わかりましたわ。ルーナちゃんにも、伝えておきますね」
「えっと、セレーネ様は、ルーナ様と……」
「はい、お友達ですわ」
そう伝えると、ルカード様は声を殺しつつも、おかしそうに笑った。
「クスクス……やはりセレーネ様ですね。わかりました。是非、ルーナ様にもお伝え下さい」
「ええ、任されました!!」
パンと胸を張ってやると、ルカード様は益々笑っていた。
何か、おかしなことを言っただろうか……?
「では、私はこれで失礼します」
最後まで優し気な笑顔を絶やさぬまま、ルカード様は校舎への道を歩き去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、僕は、よしっ、と胸の前で拳を握る。
いよいよ聖女試験。
ルカード様に聞くまでもなく、最初の課題はもう妹から聞いている。
そう、最初の試験は"力"の試験。
なんで聖女になるのに力が必要なのか疑問ではあるが、とにかく試験は試験だ。
そのために僕はずっと剣術の研鑽にも励んできた。
レオンハルトやアニエス相手では、全く相手にならない僕ではあるが、ルーナが相手ならば、さすがに負ける気はしない。
まず、間違いなく勝てるだろうと、僕はたかをくくっていた。
実は、ルーナ側に恐ろしいほど有能な協力者がついていたとも知らずに……。
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