064.妹からの助言 その5
『お兄ちゃん、おっすおっす!!』
「相変わらず軽いな……」
こちらの気も知らないで、と思わないでもないが、まあ、あちらは順風満帆そうで何よりだ。
『最近めっちゃ良い調子なんだ~。強スキルもゲットしたし、武器も新調して向かうところ敵なしって感じ』
「もしかしてミスリル製の武器か?」
『うん!』
「ってことは、もう地下都市まで解放したのかよ。うわ、本当に順調だな」
『でしょでしょ!!』
ミスリル製の武器は基礎性能が高く、強化していくことで、最新のイベントでも十二分に活躍できるほどの攻撃力だった。
妹の強さは、俺がプレイしていた時の環境まで随分と近づいてきているらしい。
もはやゲームをしていたのは懐かしい思い出レベルにまで昔になってしまった僕ではあるが、やはり羨ましいのは羨ましい。
「もうセカンド職業も解禁される段階だなぁ。まあ、もはや僕が助言しなくても、お前なら自分で最適なの選びそうだが」
『一応聞いとくけど』
「んじゃ、おススメは補助魔法系の職業だ。バフを付与した直後に、メイン職業にスイッチして殴るのがクソ強い」
『なるほど、参考にしとくね』
とまあ、あちらのことはこの辺にしておいて。
「そろそろ聖女試験が始まりそうだ」
以前、妹に聞いた最初の試験の日程は学園の入学から3か月後。
すなわち、もう間もなく試験は開始されるということ。
『学園生活の方は順調なの?』
「ああ、当たり前だが、悪役令嬢的なムーブはまったくしてないし、ヒロインであるルーナとも友好的な関係を築けてると思う」
『うんうん、そっちも順調じゃん』
「僕はともかく、ヒロインの方の好感度の調整がどうにも……。なぜだか、攻略キャラ達があんまりルーナに興味を持ってくれないんだよなぁ……」
僕が目指す友情エンドは、ヒロインと攻略対象キャラ達の関係を友達の状態にしておかねばならない。
恋愛対象でもなく、かといって親しくなさすぎるのもいけないという微妙なラインだ。
今の様子を見ていると、ルーナはあまり攻略対象キャラ達と親しい間柄とは言えず、フィンに関しては、むしろ一方的に嫌われているレベルだ。
『そうなの? ルーナってヒロインだから、むしろあんまり親しくなりすぎないように、何かしら邪魔する必要があるかと思っていたんだけど』
「全然そんな必要ないよ。むしろ、どうやって仲良くさせようか、そればっかり考えてる」
だって、ルーナが一番仲良い男子って、あの熊みたいなルドルフ先輩だもんなぁ。
先輩も人柄の良さが伝わってくる好青年ではあるけども。
『学園に入って、まだ2か月ちょっとでしょ? あんまりいきなり親しくされるより、徐々にお友達関係になっていく感じでいいんじゃないかな』
「長い目で見て行くしかないか……」
女子生徒達もルーナの人柄の良さは徐々に認めつつある。
ヒロインとしての魅力は十分にある娘だ。
きっと攻略対象達も、いずれはルーナの良さに気づくようになるだろう。
『それよりも試験の準備の方はどうなの?』
「ああ、事前に教えてもらったおかげで、1種目を除いて、それなりの準備はできてる」
聖女試験で行われる5つの種目については、以前の交流機会に妹から知らされている。
僕は試験のうち2つには勝利せねばならず、その種目については、"力"とあと何か一つを考えていた。
「最初の試験種目"力"には必ず勝つつもりだ。そのために、2年間コツコツ剣術も学んできたし」
『お兄ちゃん、地味にコツコツとか好きだもんねぇ。ゲームでも素材集めとか本当にマメにやってたし』
「まあな。それなりに自信もある。何せルーナは素人だし」
以前、ダイエットの時に、ルーナが木剣を振るっているところは見せてもらった。
その動きはまさに素人で、正直言って僕の相手は務まらない。
油断しているわけではないが、"力"の試験については楽勝だろう。
『いっつも予防線張っておくお兄ちゃんがそこまで言うなら大丈夫そうだね』
「ああ、次の報告の機会には良い知らせを持ってくるさ」
と、そこまで話したところで、白い空間がわずかに揺らいだ。
『今回も、そろそろみたいだね』
「ああ……あっ、そう言えば」
残りわずかとなった段階で、僕はとあることを思い出した。
「最近、ゲーム世界で動物の魔物化が増えているらしいんだが、これも規定路線なのか?」
『動物の魔物化?』
妹は、はて、と首を捻る。
『ルートによっては邪教徒が魔物を操ったとか、そんなイベントがあったと思う。でも、動物の魔物化は、たぶん無かったかな』
「大陸中で度々起こっているらしいんだけど」
『そうなんだ。うーん、私にも理由はわかんないな。少なくともゲームではそんな設定無かったはずだよ』
「ゲームでは無かった……」
もしかして、これも僕が悪役令嬢ではない動きをしていることの弊害なのだろうか。
『ファンタジー世界だしねぇ。私が知らなかっただけで、作り手側だけが知ってる裏設定って可能性もあるし』
「本編では説明されてないけど、設定資料集には載ってる的なやつか」
そう言われると、なんだかそんな気もしてくるが。
「まあ、考えても仕方ないか。今のところ、そこまで実害があるわけでもないし」
『そうそう。今は、試験に集中した方が──』
そこまで妹が言ったところで、今度こそ本当に白い空間が揺らいだ。
どうやら時間らしい。
『健闘を祈る!!』
「お前もな」
最後にそれだけ言葉を交わし、僕らの5回目の異世界間交流タイムは終了となったのだった。
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