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061.お兄ちゃん、有識者に頼る

「モグラ……でしたわね」

「はい、セレーネ様……」


 その後ろ姿を目撃した4人は、確認するように顔を見合わせる。


「この惨状。明らかに、あの畜生が起こしたことですわ!!」

「ルイーザさん、表現!! でも、確かにこれは許されませんわ」


 畑の畝が穴ぼこだらけなところを見ても、あのモグラらしき生き物が畑荒らしの犯人であるのは明白だろう。

 モグラの習性には詳しくないが、前世でも、農家をしていた叔父にモグラ被害について聞いたことがある。

 農作物を荒らされたり、益虫であるミミズを食べられてしまったりと、なかなかの厄介者だったそうだ。

 その時に対処法も聞いておけば良かったのだが、生憎そこまで真剣に聞いた話でもなかったので、全く覚えていない。


「そ、そういえば、校舎前の花壇も、先日ぐちゃぐちゃにされていたって、先生達が憤っていました!」

「間違いなく、同じ畜生ですわね!!」

「このまま放置していたら、再び稲を育てたとしても、また荒らされてしまう可能性が高そうですわね……」

「ええ、やっぱり見つけ出して天誅を下すべきですわ!!」

「で、でも、どこにいるんでしょうか」


 問題はそこだ。

 駆除するにしても、モグラというのは巣を地面の下に作る。

 適当に探してみたところで、そうそう見つかるものではないだろう。


「有識者の力を借りるべきですわね」

「と言っても、モグラの習性に詳しい人物なんて……」

「いますわ」


 思案顔のルイーザ達に向かって、僕は両腕を組みつつ頷く。


「あの方ならば、もしかしたら、モグラの習性についても見識があるかもしれません」

「その方というのは……」

「ええ、それは──」




「なるほど、それで僕のところまで訪ねてこられた、ということですか」


 シャムシールの背をゆっくりとブラッシングしながら、そう答えるのは、碧の国の王子エリアス様だ。

 エリアスは元々自然豊かな領地の出身で、宮廷暮らしをするその前は、実家にある森で様々な動物たちと戯れていたらしい。

 その上、読書家でもあり、その知識量から、最近では"碧の国(ウィスタリア)の叡智"なんて呼ばれることもあるほどだ。

 有智高才な彼ならば、もしや……という気持ちで、僕らは、彼の住まう王族専用の寮までやってきたというわけだった。


「はい。エリアス様の知恵をお借りしたいのです」

「セレーネ様にはシャムシールを救っていただいた恩義があります。その程度で良ければ、いくらでも力をお貸ししますよ」

「それでは……」

「はい、僕も同行しましょう」

「ありがとうございます!!」


 ブラッシングを終えたシャムシールがブルリと身体を震わせる。

 同時に立ち上がったエリアスは、壁にかけてあった真っ青な外套を身に纏った。

 病的な肌の白さは相変わらずだが、身長が伸びたことで、外套を羽織ったその姿は、まさに凛々しい王子といった様相だった。

 思わず見とれていると、彼はその怜悧な印象のある目元をふっと緩め、微笑んだ。

 瞬間、心臓が一瞬ドキリと跳ね上がる。


「どうかされましたか。セレーネ様?」

「いえ、なんでもありませんわ!!」


 いかんいかん。

 やっぱり最近の僕は本当にどうかしている。

 レオンハルトに続いて、エリアスにまでドキリとするなんて……。

 いや、でも、本当に立派になったよなぁ。

 攻略対象の中では、明らかに一番頼りなさそうだった彼だが、今では、線の細さこそ感じられるものの弱さのようなものは一切感じられない。

 表情もおどおどとしたあの頃とは違い、余裕が漂っている。

 その上、物腰は凄く柔らかいし……トゥンク。

 いや、違う!! 違うからな!!

 これはあれだ!!

 久しぶりにあった親戚の男の子が、ちょっと会わない内にえらく大人っぽくなっていたとか、そんな感情に違いない!!

 うん、間違いない!!


「と、とにかく急がないとですわ!! さあ、エリアス様!!」


 胸に湧き上がってきた感情をごまかすように、僕らはエリアス王子を連れて、件の畑へと舞い戻っていったのだった。

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