059.お兄ちゃん、美少女の正体を知る
「あなたの趣味が女装であることは認めていますが……」
はぁ、と息を吐きながら、目の前の女子制服姿の義弟を眺める。
細い足に腰。胸のふくらみこそないものの身体付きまで、まるでスレンダーな女子のようだ。
その上、ふわふわの金の巻き髪はそのままに、顔にはうっすらと化粧が施されている。
確かに、その姿は、はたから見れば、謎の美少女にしか見えないだろう。
「まさか、学園でまでしているとは思いませんでしたわ」
「あはは、最初は我慢しようと思ってたんだけど……」
頬を掻きつつも、フィンは弁明する。
「その、やっぱり……姉様の制服姿を見た時に、どうしても我慢できなくなっちゃって」
そう言えば、最初に僕の制服姿を見た時、なんだか動揺してたもんなぁ。
あれは、自分も着たいという禁断症状の現れだったのか。
「まあ、私もあなたの趣味は認めていますし、別に女子の制服を着ること自体は構わないのですが、もう少し目立たないようにした方が良いですわよ。謎の美少女が出没する、って、学内でたいへんな噂になっているようですし」
「あー、うん、わかった。今後は気をつけます」
若干シュンとしたフィン。
まあ、今回はついつい性癖の方が暴走してしまったようだが、基本的にはフィンは分別ある人物だ。
今後はきちんと折り合いをつけて、目立たない範囲で楽しむこともできるだろう。
さて、これで一件落着……かと思いきや。
「セレーネ様!!」
『うわっ!?』
突然、呼びかけられ、二人してビクッと震える僕とフィン。
木々の隙間から現れたのはルーナだ。
そして、少し遅れてルイーザも現れる。
「はぁはぁ……ようやく追いつきましたわ」
「凄いです、セレーネ様!! 謎の美少女を捕まえたんですね!!」
「え、ええ、まあ……」
ルーナが女装したフィンの事をマジマジと見ている。
さすがに今から風魔法で逃げるわけにもいかず、フィンは表情を固めたまま呆然としていた。
まずい。
ルイーザはともかく、ルーナはフィンと先日顔を合わせたばかりだ。
万が一気づかれでもしたら……。
「あー」
真剣な表情で、フィンの顔を見つめていたルーナは、にっこりと笑った。
「本当に美人さんですね!!」
あ、良かった。気づいてないわ、これ。
「あ、あはは、ありがとうございます」
フィンも冷や汗を垂らしながらも、笑顔でそう返す。
「むぅ、確かに、噂にたがわぬ美少女っぷりですわね。まあ、セレーネ様には劣りますが」
ルイーザの方も、なにやらうんうん唸っている。
まあ、このクオリティだものな。
2人とも、フィンが男だなんて、欠片も思っていないらしい。
「あなた、お名前は?」
「え、えっと……フィー、です」
ルイーザに問われたフィンは、絞り出すように偽名を名乗る。
「フィーさんですわね。学年は? 学内であなたの事を知っている人が1人もいないのはなぜですの?」
よほど色々気になっていたのか、矢継ぎ早なルイーザの質問にフィンはもうたじたじだ。
「えと、その……」
「あ、あのですね。ルイーザさん」
僕は、フィンをかばうように前に出る。
「彼女は私たちと同じ1年生ですわ。身体が弱くて、なかなか授業には出て来られないんですの。休日はこうやって散歩をして、少しずつ身体を慣らしているらしいですわ」
「そうなのですね!」
とっさに思いついた設定だったが、どうやらルイーザは受け入れてくれたようだ。
「なるほど、それで誰も貴女の事を知らなかったわけですわね。合点がいきましたわ」
「さ、さ、それじゃあ、そろそろ」
話を打ち切って、フィンを帰そうとした僕だったが……。
「お待ちくださいまし」
ルイーザが、フィンの手を取った。
「え、えーと……」
「理由も知らず、追い回してしまって、申し訳ありませんでしたわ」
「あ、いや、それは、全然……」
「私、あなたの境遇に心打たれましたの。よろしければ、休みの日だけでもご一緒に過ごしませんか? 授業の事などもお伝えさせていただけますし、ずっと一人で過ごすだけでは気が滅入ってしまいますわ」
「え、ええ……」
ルイーザの思いがけない優しさに、僕とフィンは顔を見合わせた。
「そうですね。一人は寂しいですし。お昼だけでも一緒に食べたり、少しでも交流出来たら楽しそうです♪」
ルーナの方も乗り気だ。
「ど、どうされますか? フィ、フィーさん?」
「えっと、その心遣いは嬉しいのですが……」
「遠慮なんてしなくて良いのですわよ。セレーネ様も、そう思いますよね?」
「え、あ、はい……」
有無を言わさぬルイーザの聖人ムーヴ。
その勢いに押されて、僕はついつい首を縦に振ってしまった。
それを見て、根負けしたようにフィンもはぁ、と息を吐いた。
「わかりました。それでは休日、お時間ある時はご一緒させていただければ」
「ええ、色々頼って下さって、構いませんからね!!」
ガシッとフィンの手を握るルイーザ。
やっぱりこの娘、本当に根は優しいよなぁ。
「……この娘、ちょっとだけ姉様に似てるなぁ」
「ん、フィーさん、何か言いまして?」
「い、いえ、何でも……」
こうして、なんだかんだと受け入れられたフィン改めフィーちゃんとは、休みの度に、度々一緒に過ごすようになったのだった。
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