058.お兄ちゃん、謎の美少女と出会う
ルドルフ先輩と別れた僕らは、すぐに残り半分の湖畔の道の捜索を開始した。
先輩が言っていた男子生徒が謎の美少女に出会ったのも、男子校舎側に近い方の湖畔だったらしい。
一度、顔を見られかけたことから、もしかしたら、警戒してこちらにはいないという可能性もあるが、他に特に有益な情報もないので、今はここを探してみるしかないだろう。
気になるのは、顔を見られそうになった時の様子だ。
突風が吹いたと思ったら、すでに彼女の姿は無くなっていた。
その一連の様子は、まさに魔法だ。
前世の感覚で言えば、不可思議な出来事ではあるが、この世界の貴族のほとんどは大なり小なり魔力を持っている。
美少女が秘密を守るために、自ら魔法を使ったということも考えられるだろう。
「何にせよ。仮に見つけたとしても、気は抜けませんね」
そう独り言を呟いた瞬間、先頭を歩いていたルイーザが歩みを止めた。
「ルイーザさん?」
「セレーネ様、あれ……」
遠慮がちに指差された場所へと視線を向ける。
少し先にある湖畔のベンチ、そこに一人の少女が座っていた。
休日にも関わらず制服姿。遠目で顔立ちまではわからないが、金色の巻き髪をした女の子だ。
「聞いていた特徴と一致します。もしかして……」
「間違いなさそうですわね」
案外あっさりと見つかった謎の美少女らしき人物。
僕ら三人は、顔を見合わせる。
「どうしましょう。このまま声をかけてみますか?」
「そうですわね。でも、ルドルフ先輩の話からすると、逃げられてしまうかもしれませんわね」
「だったら、1人が声をかけて、残り2人で逃げ道を塞ぐのはどうでしょうか」
「なるほど、平民にしては良い案ですわ」
僕らは、うん、と頷き合うと、それぞれが配置につく。
声をかけるのはルイーザ、道を塞ぐのが、僕とルーナだ。
湖畔の道のどちら側に逃げても大丈夫なように、北側に僕、南側にルーナが移動すると、ルイーザはゆっくりと謎の少女へと歩を進めた。
すると、ルイーザが近づいてくるのに気づいた謎の美少女が徐に立ち上がった。
そして、そのままルイーザとは反対方向に歩いて行こうとする。
「あの!! ちょっと待って下さいませ!!」
その背に声をかけるルイーザだったが、美少女は逆に足早になっていく。
だが、問題ない。そちらには、ルーナが控えているのだから。
「ちょっと待って!!」
湖畔の脇の藪の中から登場したルーナは、バッと両手を開いて、謎の美少女の進路を塞ぐ。
「ねえ、少しだけお話ししましょう? みんなあなたの事が気になってるの」
そう声をかけるルーナだったが、当の美少女の方は片手で顔を隠したまま、何の反応もない。
そうこうしているうちに、後ろからルイーザも追いついた。
「はぁはぁ……ほら、もう逃げ場はないですわよ。お顔を見せて下さいまし」
完全な挟みうち。
さすがにもう逃げられないだろうと思った、次の瞬間。
「えっ!?」
湖畔に猛烈な風が吹き荒れた。
巨大な木々さえも揺らす烈風に、ルーナとルイーザがたまらず蹲る。
間違いない。
これは魔法だ。
あの少女が、碧の魔力で風を操っているのだ。
「あれ、でも、あの魔法どこかで……あっ」
そして、そんな風の中を謎の美少女は、二人から逃れるように端の藪の奥へと駆けて行った。
「……追いかけてみるとしますか」
少しだけ頭をよぎった疑念を確認するためにも、僕は気づかれないように、彼女が逃げていった方へと駆け出したのだった。
「……いた」
駆け出して少しもしないうちに、僕はすぐに謎の美少女の姿を捉えた。
帰路に就こうとしているのか、目立たない林の間を足早に進んでいる。
僕はそそくさと先回りをすると、彼が通りかかるであろう木の陰に隠れた。
そして……3,2,1。
「はい! 捕まえましたわ!!」
「うわっ!?」
横から胴を抱くようにして、謎の美少女をキャッチする。
驚いた美少女は思わず声を上げたのだが……ああ、やっぱり。
「まったく、何をやっていますの……」
美少女の胴を離すと、僕はやれやれと腕を組んだ。
「……フィン」
「あ、あはは……」
謎の美少女、もとい、僕の義弟フィン・ファンネルは、化粧さえ施されたその顔に苦笑いを浮かべたのだった。
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