052.お兄ちゃん、米っ娘と再会する
お茶会としては成功だったかもしれない。
美味しいお菓子に、アニエスの淹れたお茶、他愛無い会話をしながら、優雅な午後のひと時を楽しむことができた。
参加してくれた王子達やフィンもとても満足げだった。
うん、だから、お茶会としてはやはり成功と言ってもよい。
「でもなぁ……」
今回の本来の目的は、それぞれの人物とルーナを出会わせ、その好感度を上げること。
前者の出会わせるという目的は果たせたと言っても良いが、後者の好感度の方が……。
うーん、やはり、クッキーを作ったのが自分という流れになってしまったのがいけなかった。
そのせいで、妙に僕が褒められまくることになってしまったのだが、本来はその評価はルーナが受けるべきものだったはず。
その後の話題も、なぜだか僕がいかに凄いか、というような内容になってしまい、結局あまりルーナの良さをみんなに知ってもらうことはできなかった。
もしかして、僕、また、いらないことをしてしまったんだろうか……。
「思った以上に上手くいかない……」
はぁ、とため息をつきながらも、取り巻きの令嬢達と登校路を歩いているその時だった。
「セレーネ様ぁ!!」
「へっ?」
感極まったような声に振り向けば、そこにいたのは、まっさらな制服を着、ドリルのような髪型をしたそばかすの女の子。
「あ、ルイーザさん」
「あーん、セレーネ様ぁ!!」
瞳から滂沱の涙を流し、僕へと抱き着いてきたのは、かつて社交界で親しくなった少女ルイーザだった。
辺境伯の娘である彼女は、領内に蔓延していた流行り病のせいで、入学が遅れてしまっていたのだが、ようやくこちらに来る許可が下りたようだ。
よしよし、と頭を撫でてあげると、ルイーザは鼻水を垂らしながらも幸せそうに微笑んだ。
「あー、本当に……本当に……お会いできて嬉しいです!! セレーネ様ぁ!!」
「ええ、私もよ。ルイーザさん」
実際、他のおべっかばかりの令嬢達よりも、僕は彼女の事が結構好きだ。
貴族としての家格から、ルイーザも必要以上に僕を持ち上げようとするきらいはあるのだが、嗜めれば止めてくれるし、他の令嬢達に比べて、なんというか根が素直なのが感じ取れるというか。
田舎育ちゆえの、大らかさとでも言おうか。
比較的、庶民的な感覚にも理解があり、領地に住まう人達の事も大切に思っているのが、僕から見た彼女の評価ポイントだった。
「ほら、これでお顔を拭いて下さい」
「あ、あびばどーございばす!!」
ずずぅ、と鼻水を噛んだルイーザは、ようやく落ち着いたようにシャキッと直立した。
うん、元々、スタイルが良いのもあって、制服姿も良く似合っている。髪型だけはいかんともしがたいけど。
「失礼しました。つい嬉しさのあまり……」
「いいのよ。私とあなたの仲じゃないですか」
「セレーネ様と私の……うっ」
心臓を撃ち抜かれたかの胸を押さえるルイーザ。
大丈夫かな。領地の病気、かかっちゃったりしてないよね。
「はぁ、はぁ、ダメ。いきなり大量のセレーネ様分を摂取したから、動悸が……」
いや、人をサプリみたいに言わんで。
「とにかく、これからは一緒に学べるのですね」
「は、はい!! 改めて、宜しくお願いします!!」
そんなわけで、ルイーザも合流して、女子校舎へと歩いていく。
聞けば、寮舎も隣らしく、これからは毎日一緒に登校ができそうだ。
さて、友達も増えたことだし、破滅エンド回避に向けて、改めて頑張らないとなぁ。
と、そんなことを考えていたその時、道の端に見知ったオレンジ色の髪が目に入った。
ルーナである。
彼女は、僕を見つけると、ぴょこぴょこと小走りに駆け寄ってきた。
「セレーネ様!! おはようございます!!」
「おはよう。ルーナ」
そう言って、頭を差し出してくるルーナ。
僕は、そんなルーナの頭を撫でてやる。
うーん、なんだか、最近こんなやり取りが増えてきた気がする。
彼女は少し子どもっぽいところがあるのだが、スキンシップを求めがちというか、なんだか本当にお姉ちゃんのように思われている節がある。
確かに年齢基準で考えて、やや大人っぽく見える僕とやや子どもっぽく見えるルーナでは、はたから見れば姉妹のように見えるのかもしれない。
まあ、不快ではないから良いんだけど。
「む、むぅ……。セレーネ様。誰ですか、この馴れ馴れしい娘」
「この娘は、クラスメイトのルーナちゃんよ」
「ルーナ? …………あっ!!!」
思い出したように、ルイーザがルーナを指差す。
「あなた、セレーネ様がいるにも関わらず、聖女候補に選ばれたっていう!!」
「あ、はい、そうです」
あっけらかんと言うルーナ。
そんなルーナを見て、ルイーザはわなわなと震えている。
「な、なんで、そんな人が、セレーネ様のお傍にいるんですか!!」
「あ、あのね、ルイーザ……」
私は、どぅどぅと落ち着かせるように手を振りながら、ルイーザを宥める。
「ルーナちゃんとは、聖女候補云々を抜きにして、仲良くさせてもらっているの」
「そうなんです! セレーネ様とは大の仲良しなんです!」
「な、な、な、仲良し……ですって……」
ルイーザは、俯き加減のまま、怒髪天を衝くかのような鬼の形相をしている。
すぐにも爆発しそうな雰囲気だったが、彼女は、ふぅ、と息を吐くと、興奮を抑えるかのように特徴的なドリルヘアーを指でいじった。
「あ、あなた、勘違いしてしまったのね。セレーネ様は、本当に聖母のようにお優しいから、別にたいした関係でもないのに、そう言ってくださっていることに気づいていないのだわ。あらら、おかわいそうに」
どうやら、そうやってマウントを取ることで、なんとか自分を抑えつけたようだ。
「あのね、ルイーザさん。ルーナちゃんとは──」
「とにかく!! 私は、あなたがセレーネ様と仲良しだなんて、決して認めませんからね!!」
指を差しつつ、そう宣言するルイーザに対して、ルーナはわけもわからず首をひねるのだった。
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