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051.お兄ちゃん、お茶会を開く

 最初に来たのは、レオンハルトだった。

 ひときわ視線を集める彼は、悠然と歩いてくると、紅の国の王子らしい堂々とした礼をした。


「セレーネ。入学パーティーぶりだな」

「ええ、レオンハルト様」

「今日は招いてくれて感謝する。存分に楽しませてもらうよ」

「セレーネ様」

「エリアス様!!」


 続いてやってきたエリアス。

 今日もまた、シャムシールと一緒だ。


「今日はお招きいただいて、光栄です」

「こちらこそ、足を運んでいただけて幸甚ですわ。シャムシールも」

「にゃ~♪」


 機嫌よさげに喉を馴らすシャムシール。

 身体はずいぶん大きくなったが、こういう仕草はやっぱり可愛らしいなぁ。


「おう、待たせたな。お嬢様」


 最後にやってきたのは、アミール。

 彼は、気障ったらしく、ヨッと指を振った。


「おい、貴様。また、セレーネに馴れ馴れしく」

「おっと、大将。今日はケンカは無しにしようぜ。せっかく招いてくれたお嬢様に悪い」

「くっ……いいだろう。しかし、節度は保てよ」

「わかってるさ」


 一応の停戦協定を結んだ2人は、それぞれ一番離れた席に腰を下ろした。

 その間にエリアス王子、そして、フィンが座る。

 本来なら、上座なんかも考えなければならないところなんだろうけど、自分から王子達が腰を下ろしてくれたので、気を遣わずに済んで良かった。


「皆さん、今日はお越しいただき、ありがとうございます。ささやかではありますが、お茶とお菓子を用意させていただきました。ゆっくりと楽しんでいって下さいませ」


 僕の挨拶とともに始まったお茶会。

 アニエスが、お茶を汲み、僕とルーナがお茶菓子を運ぶ。


「セレーネ、そちらのお嬢さんは?」


 さすがに、顔見知りばかりの中での第3者ということもあって、目論見通りレオンハルトはルーナの事が気になったようだ。

 しめしめと心の中で思いつつ、僕はルーナの肩を抱いた。


「彼女は、同じクラスのルーナちゃんですわ」

「ルーナ……ああ、あの」


 さすがに、皆ルーナの名は知っていたようで、それを聞くと顔を見合わせた。


「ル、ルーナです!! この度は、その……」

「ああ、君が平民なのは知っている。無理に貴族の流儀に合わせる必要はないよ」

「あ、ありがとうございます! レオンハルト王子」


 さすがのルーナも、王子様相手には緊張するのか、ホッと胸を撫で下ろす。

 うんうん、まあ、いい感じなんじゃないの。

 しかし、レオンハルト達の視線は、ルーナというよりは僕の方に向かっている。


「え、えーと……」

「いや、しかし、聖女候補同士が仲良しとはな」

「はっはっは、そんなところもお嬢様らしい」

「そうですね。セレーネ様らしいです」


 なんだか呆れられているのか、褒められているのか定かではないけど、とりあえずはルーナの事はすんなりと受け入れてもらえたようだ。


「しかし、聖女候補様二人からおもてなしされるとはな。これは、気合を入れて楽しまないと」

「節度は守れよ」

「それにしても、このクッキー、とても美味しいですね」


 エリアスがぼそりと呟いたのを皮切りに、他の面々も次々とクッキーを口に運ぶ。


「本当だ。美味い……」

「へー、こりゃ、たいしたもんじゃねぇの」

「お気に召したようでなによりです。実はこれ、ルーナちゃんが──」

「セレーネ様が作ったんです!!」


 僕が言い切る前に、ルーナが嬉々とした笑顔でそう宣った。


「これをセレーネが……!?」

「いや、これはルー──」

「はい、そうなんです!! 皆様に喜んでもらうために、何日もかけて、一生懸命研究されていたんですよ!!」


 凄いでしょ、と言わんばかりにキラキラした目で、僕の事を賞賛するルーナ。

 いや、ルーナが作ったということにして、アピールする手筈だったはずでは……。


「ふむ、まさか、セレーネにお菓子作りの才能まであったとは」

「ああ、こりゃ、聖女になれなかったとしても、店で働けるレベルだぜ」

「聖女にならなければ、俺の妻になるのだが……。いや、ただ、職人レベルだというのには同意する」

「姉様は、本当に凄いなぁ……」


 いや待って、これルーナじゃなくて、僕の評価が上がっちゃってるんだけども。


「皆様、少々落ち着いて下さいまし。これを作ったのはルーナちゃんでして……」

「そうなんです! 私もお手伝いしたんですよ!! 試食とか!!」

「そうそう、それでちょっと太ってしまって……ってルーナちゃん」


 この娘、完全に自分をアピールすること忘れている。

 もっと、念押ししておくんだったぁ……。

 その後もフォローは入れて見るものの、みんなの中ではクッキーを作った功労者は僕という認識になり、ただただ絶賛される時間が過ぎていくのだった。

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