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050.お兄ちゃん、ダイエットに付き合う

 さて、僕が前世のお菓子の再現に注力するあまり、すっかり太らせてしまったルーナちゃん。

 うん、こうやって改めて見ても、乙女ゲームのヒロインには全く見えなくなってしまった。

 顔立ちの可愛さはまだまだ残ってはいるが、やはり頬や顎についた肉をどうしても意識してしまう。

 ブレザーのボタンは飛びそうだし、スカートもホックが留まっていない。

 まだ、ややぽちゃレベルではあるだろうが、元々が乙女ゲーキャラらしいスレンダーな体型だっただけに、ギャップで余計にひどく見えてしまう。

 お茶会まではもう日がない。

 元とまでは言わないが、なんとか少しでも痩せさせないと……。


「というわけで、アニエス。協力をお願いしたいのです」

「お嬢様の願いとあらば」


 どんと、仁王立ちする元王宮騎士アニエス。

 彼女の手には、木剣が握られている。


「では……。貴様が、ルーナという豚か。なるほど、しまりのない面だ」

「え、えーと、アニエス……?」


 同じく木剣を持った、ルーナと対峙するアニエスは、いつものサイボーグじみた無表情のまま、ルーナを罵倒し出した。


「貴様の肥え太ったそのだらしない身体を少しは絞る手伝いをしてやる。少しでも音を上げてみろ。そのフグのような頬の肉を引きちぎって……」

「アニエス、戻ってきて!! アニエース!!」


 とりあえず、幼い頃、父親にそうやってしつけられたらしいアニエスの鬼教官っぷりを時折宥めつつも、ダイエットがスタートした。

 扱く、扱く、扱く。ちょっと引くぐらい扱く。

 直接アニエスと戦うわけではなく、素振りなどを繰り返すだけなのだが、それでもかなりの運動量だ。

 ただでさえ、ぷくぷくになってしまったルーナは、すぐにぜぇぜぇと言い出したが、それでもアニエスは手を緩めない。


「でかいケツを引くな。姿勢を正せ。腕を上げろ。できないなら、そのたるみきった腹の肉を引きちぎって……」

「アニエース!!」


 時折、やり過ぎそうな時はフォローに入りつつ、しっかりと水分補給もしながら、ダイエットは続く。

 素振りの次はランニング、それが終われば縄跳びだ。

 ロッキーかよ、と思わんばかりのハードトレーニングに、倒れないかとハラハラしつつも、ルーナはなんとか頑張ってついて来る。

 元々のゲームでも、ルーナは結構反骨心の強いキャラで、セレーネとの聖女試験でも、最初は能力的に劣っていても、最後は逆転する努力家な人物だったという話だ。

 今回のダイエットで、ルーナのそんな性質に火がついてしまったのかもしれない。

 お茶会当日の早朝には、ルーナはすっかり元の体型を取り戻していた。


「やりました……。セレーネ様、アニエス師匠!!」

「やりましたわね!! ルーナ!!」

「ふん、少しはましな顔つきになったようだな」


 アニエスが右手を差し出すと、ルーナはその腕を握り返した。

 そうして、2人してニヒッと笑い合う……いや、何この空気感。絶対乙女ゲームじゃないやん。


「さあ、ルーナは元通りになりましたが、まだ準備がありましてよ」

「そうでした。お嬢様、会場のセッティングはお任せを」

「ええ、頼みましたわ。アニエス」


 そんなわけで、アニエスに大まかな準備は任せ、僕らは手配していた飲み物の類を受け取りにいく。

 ティーセットや自分たちで作ってお菓子を揃えて持って行く頃には、すでに学園の庭園の一部には、立派なお茶会場が完成していた。


「さすがアニエスですわね」

「ありがとうございます。フィン様も手伝ってくださいましたので」

「姉様、今日はお招きにあずかり」

「まあ、フィン。それではまるで社交界のようですわよ。もっと気軽に行きましょう」


 なんだかんだ、手伝いにやってきてくれたフィンにそう言うと、僕達はお互いに微笑み合った。

 フィンに、アニエスに、僕。

 ついこの間までは、セットでいることが多かったせいか、なんだか3人揃うと自然と笑みがこぼれてしまう。

 さて、お菓子を並べ終え、ティーセットを用意すれば、もういつでもお茶会をスタートできる準備は整った。

 学園内でのお茶会なので、碧や紅の国で行われるガチもんに比べれば、ささやかなものではあるが、自分たちで準備したとなると、なんとも言えない達成感があった。


「そろそろ時間ですね」

「あの、ルーナちゃん……」


 僕は、制服姿にエプロンをつけたルーナの肩をガシッと抱く。


「セレーネ様?」

「これからいらっしゃるのは、私の学友であり、各国の王子様方です」

「はい! セレーネ様って、本当に顔が広いですよね!!」

「皆様、身分が高いだけでなく、内面もとても素敵な殿方ばかりですわ」

「そうなんですね!!」

「ええ、ですから、ルーナちゃんもこの機会に、是非仲良くなっていただきたいの」

「もちろんです!!」


 僕の必死さがわかっているのかいないのか、ルーナは満面の笑みで微笑んでいる。

 まあ、愛想が良いのはいいことだ。

 お菓子作りについても、あくまでルーナがメインで、僕と共同で作ったと言うようにルーナには話している。

 味には自信があるし、これで攻略キャラ達からのルーナの覚えがよくなれば、万々歳だ。


「セレーネ様、お客様方がお見えになりました」


 アニエスの言葉に、僕は心の中で、よしっ、と気合を入れて、振り返ったのだった。

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