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049.お兄ちゃん、お菓子作りをする

 さて、そんなわけで放課後、僕はルーナと一緒に調理場に立っていた。

 碧の国では比較的貴族であっても料理をする者も少なくなく、学園内にも一部、そういった人達が借りられる調理場が用意されている。

 お菓子の材料はすでに、アニエスにお願いして用意してもらっている。

 あとは作るのみだ。


「とりあえずクッキーを作ってみましょうか」

「はい! わかりました!!」


 というわけで、クッキー作りの開始だ。

 まずは、砂糖、卵、目の細かな小麦粉を混ぜる。


「ふん!! ふん!!」

「ルーナちゃん、声、声」


 ボールに入ったそれらを全力でかき混ぜるルーナ。

 その手つきはお世辞にも調理慣れしているとは言い難く、無駄な力も入りまくっている。


「ルーナちゃん、ほら、力を抜いて」


 僕はルーナの背中側から手を回すようにして、彼女の両腕を掴む。


「あまり力を入れると、すぐに疲れてしまいますわ。こんな感じで、ゆっくりで構いませんから」

「わ、わかりました……!!」


 なぜだか、顔が少し赤いルーナちゃんに混ぜ混ぜ作業を任せると、僕はその間にチョコレートを刻む。

 今回作るクッキーは、まさにカントリー〇ァムだ。

 チョコレートを真ん中に入れた少ししっとりとしたクッキー。

 これなら簡単に作れるし、何よりも前世で妹と作った経験がある。

 作業はつつがなく進行し、無事クッキーは焼き上がったのだが……。


「ルーナちゃん、どうかしら?」

「おいしいです!! 頬っぺたが落ちそう……!!」


 にこにこ顔でカントリーマ〇ムもどきを食べるルーナ。

 うん、じゃあ、僕も一つ……もぐもぐ。


「うーん……」


 なんだろう。

 マズくはない。

 マズくはないのだが、前世でモノホンを食べているせいか、コレジャナイ感がどうしても……。


「ルーナちゃん、もう一度作りましょう」

「えっ、でも……」

「これでは、ゲストの方々に失礼に当たります」


 うん、どうせ食べてもらうなら、もっと完璧なものを用意したい。

 異世界の味がこんな程度だなんて思われるのは僕としても心外だ。


「完璧なものを目指しましょう。何度でも」

「セレーネ様……はい!!」


 こうして、僕とルーナのお菓子作り生活が始まった。

 何度も思考錯誤を繰り返し、記憶の中にあるあの食感を目指す。

 パリッとしすぎず、甘さは強めで。

 理想の形に近づいては離れ、離れては近づきを繰り返すうちに、月日は矢のように過ぎ去っていった。

 そうして……。


「で、できました……これです!! この味です!!」


 記憶の中にあるものそのままの味と食感に、自然と涙があふれだした。

 ああ、頑張って良かった。

 僕は、今、故郷の味に出会えたのだ。

 カントリーマァ〇という名の、故郷の味に……。


「やりましたわ!! これでお茶会もばっちりです!!」

「ええ、とっても、おいしいです!! 手が止まらないほどに!!」

「そうですわね!! …………って、えっ?」


 あれ、なんだろう。

 目がおかしくなったのだろうか。

 なんだか、ルーナちゃんがえらく横に広がったように見える。

 頬っぺたがぷくっとしているし、下あごも少し段になっているような。

 ソックスのゴムもゆるゆるのゆるになっている気がする。


「ルーナちゃん……太りました?」

「えへへ、試作品を全部食べていたら、ちょっとおっきくなっちゃいました」


 てへへと頭を掻く、まるでマスコットキャラのようになってしまった丸々としたルーナちゃん。

 いや、可愛いよ。

 可愛いけどさ。

 違うよ。攻略対象達が求めているのは、そういう可愛さじゃないんだよ!!

 あー、またしても僕は何をやってるんだ!!

 クッキーづくりの練習で、ヒロイン太らせるとか、どうかしてんだろ!!

 こんな姿で、攻略キャラ達に出会ったりなんかしたら……。

 いや、体型に対しての偏見があるわけではないけど、やはりあまり良い印象は持たれないのではないだろうか。

 少なくとも、正史の姿とはかけ離れた体型にしてしまった責任は取らなければならない。


「もぐもぐ、うーん、おいしいです♪」

「ルーナちゃん!!」


 あわてて、ルーナが口に入れようとしていたカントリーマ〇ムを取り上げる。

 そして、僕はふくふくとしたルーナの肩を掴んだ。


「ダイエットしましょう!!」

「だ、だいえっと?」

「ええ、私がきっと、責任を取って差し上げます」


 決意を瞳の炎として表し、僕は熱血スポコン気分で宣言するのだった。

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