047.お兄ちゃん、またしてもフラグを折る
そして、するすると登り始める。
「姉様!! 危ないよ!!」
「大丈夫ですわ! これでも昔はよくやっていましたの」
大昔にね。
どうやら、木登りの感覚はしっかりと身体が覚えてくれていたようで、駆け上がるようにして、枝のついた辺りまで辿り着いた。
「ふぅ、問題はここからだな」
「セレーネ様!! 本当に危ないですよ!!」
「そうだよ、姉様!! もし、落ちたら……」
「その時は、フォローお願いしますわね」
僕は、そのままじわじわと枝に取りついていく。
巣がある場所まではあと少し。
枝の強度には不安があるが、今の僕は華奢な女の子だ。
まあ、ギリギリなんとかなるだろう。
できるだけ負担をかけないように、そろりそろりと枝を這っていたその時だった。
つぶらな瞳と目が合った。
それは、なかなかに立派な蛇さんだった。
「……ど、どうもー」
ふむ、どうやら、この蛇さん、雛を狙っているらしい。
そもそも巣から雛が落ちてしまったのも、こいつのせいだろう。
うーむ、まあ、生きるためには仕方ないことなのだけど、すでに僕はこちら側についてしまったわけだしなぁ。
今更、雛や卵が食べられるのを黙って見ていることもできない。
「悪いのですが、見逃してくれませんこと? ……まあ、無理ですわよね」
人間の登場に、警戒心も露わな蛇さんだったが、徐々にその距離を詰めてくる。
蛇の毒とかにも、聖女の力って効くのだろうか?
「セレーネ様!!」
「姉様!! 逃げて!!」
蛇の存在に気づいたらしい2人の声が聞こえる。
いやいや、心配しすぎだわ。
その時、蛇が身体を反転させた。
僕が動じないとわかるや否や、逃げの体勢に入ったらしい。
「隙あり」
と、背中を見せた蛇の頭のすぐ下を手でつかむ。
うーん、勘は衰えていなかったな。
昔は、よく蛇ぶん回して、友達と遊んでたもんなぁ。
そのまま頭の後ろを押さえたままそのお顔を観察する。
うん、つぶらな瞳の可愛い奴じゃん。
「ね、姉様……」
「す、凄い……」
蛇をホールドしつつ、僕は残りの枝をよじよじと移動すると、胸の雛を巣の中へと返した。
「ふぅ、ミッションコンプリート」
安心した瞬間だった。
手のホールドが弱くなっていたのだろう。
身動ぎした蛇に、一瞬動揺した僕は──
「姉様!!」
真っ逆さまに地面へと落下した。
しかし……。
ふわりとした感覚があり、まるでクッションに包まれるようにして、僕は地面にふんわりと着地をすることができた。
どうやら、フィンが風魔法で受け止めてくれたらしい。
「ふぅ……」
「フィン、ありがとう!」
ギュッとフィンを抱きしめる。
うーん、やっぱり魔法って便利だなぁ。
僕も、白だけでなく他の魔法も使えるようになりたいものだ。
「まったく、姉様は本当に無茶しすぎです……。あ、あと、蛇近づけないで下さい。蛇」
「セレーネ様、心配しましたよぉ!!」
ルーナも半ば涙目だ。
「すみません。つい……」
「まあ、とにかく、無事で良かったよ……って、あっ」
その時、フィンは気づいた。
僕のスカートの裾の一部が破れてしまっていることに。
「あー、どこかにひっかけてしまったかしら」
新品のスカートをこんなにしてしまって……。うわぁ、若干テンション下がるなぁ。
「まったく……。姉さん、ちょっとそこ座って」
「えっ?」
フィンは、どこから取り出したのか、そそくさと針と糸で僕のスカートを補修していく。
「よっと、こんなもんかな」
「フィン! さすがですわ!!」
「ちょ、姉様、抱き着かないでください!! あと、蛇!!」
すっかり元通りになったスカートにテンション上がりっぱなしだ。
いや、しかし、持つべきものは、裁縫の得意な弟だな。
そうそう、確かフィンって、ゲームではルーナのスカートも縫って……って。
「あぁっ!!!!?」
「ね、姉様……?」
これ、あれじゃん!!
ルーナとフィンの出会いのイベントそのまんまじゃん!!
そうだよ。妹から聞いたイベントでは、確か、今の僕と同じように木から落ちたルーナを魔法で助けたフィンが、彼女の破れたスカートを縫ってあげるところから交友が始まるのだ。
やべ、完全にフラグへし折ってしまったじゃん……。
せっかく、ルーナとフィンを仲良くさせるチャンスだったのに……。
「セレーネ様は、本当に優しくて……勇敢で……」
ルーナからの称賛の視線を浴びつつも、僕は心の中で、頭を抱えたのだった。
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