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046.お兄ちゃん、弟の本心を知る?

 突然、真剣な表情のフィンに壁ドンされた僕。

 いや、ドンってしてるのは木の幹だから、幹ドンか?

 って、そんなことはどうでも良くて……。


「えっと……フィン?」

「僕はね、本当は誰にも姉様を渡したくない。レオンハルト様にだって……」


 熱のこもった視線でそうささやくフィン。

 背筋がゾクゾクとする。

 なんだ、この色気は。

 ああ、あんなに可愛かった僕の弟は、いったいいつからこんな大人っぽい目をするようになってしまったんだ。

 このままじゃ、まずい気がする。

 強制力ゆえか、また心臓がバクバクしてきた。

 だけど、フィンは普段からは考えられない強引さで僕をまっすぐに見つめている。


「本当は、本当は……」

「あ、あの、セレーネ様?」

『うわっ!!?』


 ひょこっと木の裏から顔をのぞかせたルーナに、僕とフィンは、慌てて飛び退く。


「ル、ルーナ!?」

「い、今の話……」

「ん? お話しですか? 良く聞き取れませんでした」


 あっけらかんとそう言うルーナ。

 その何も考えていなさそうな顔を見ていると、本当にそうなんだろう。


「また、ルドルフ先輩が餌やりしてるみたいです! 行ってみましょう!」

「そ、そうですね。ルーナ」


 そんなわけで、ルーナを先頭に、昨日と同じ突堤まで歩いていく僕ら。

 歩きながら、僕は横に並ぶフィンに小声で話しかけた。

 

「そ、その、フィン、さっきの話なんですが……。誰にも渡したくないというのは、家族として、ということですわよね?」

「え、えっと……うん、そうだよ」


 フィンは、さっきの真剣な顔が嘘だったかのように、いつも通りの調子で言った。

 うん、そうだよな。やっぱり僕の勘違いだ。


「そうですわよね。ははは」

「そうだよ。ははは」

「ん? おかしなセレーネ様とフィン様」




 さて、そんなことがあった後で、会話がスムーズに進むはずもなく、いつしか口数はどんどん少なくなっていった。


(ま、まずいですわ。これじゃ、ルーナとフィンを会わせた意味が……)


 なぜだか、ルーナに敵対意識のようなものを持っているフィン。

 おそらくだが、フィンは僕の事こそ聖女だと思っているのだろう。

 その意識のせいで、どうしてもルーナの事を素直に受け入れることができない……のだと思う。

 正史のフィンは、公爵家の跡取りとして厳しく教育された影響で、人への関心というものを極端に失っていた。

 セレーネにも家族としての愛情を抱いておらず、彼女が聖女かどうかということにも関心が無かった。

 でも、今のフィンは、僕ととても仲良しだ。

 出会った頃から、初めてできた弟にテンション上がって、溺愛してしまっていたからなぁ。

 フィンも僕の事を慕ってくれているようだし、それは良かったのだが、そのせいもあってか、ルーナを"敵"と認識してしまったのはいたたまれない。

 さすがに他の令嬢たちのように、ルーナに対して何か嫌がらせをするようなことはないとは思うが、友好的に振舞おうともしてくれないようだ。

 まったく。ヒロインだと勘違いして、聖女ムーブかましまくっていた頃の自分を殴ってやりたい……。 


「あの、姉様。僕、そろそろ」

「お、お待ちになって、フィン!!」


 場の空気に耐えられなくなったのか、帰宅を申し出るフィンに慌ててノーを突き付ける。


「姉様……?」

「そ、その、まだ少し……」

「あっ……」


 気づいたのは、ルーナだった。

 湖畔の小道のさらに外側。

 並び立つ街路樹の木の上で、茶色い何かが動いた。

 よくよく見れば、それは水鳥の雛だ。

 そして、その雛は何かに慌てたように巣の縁から……。


「ダメっ!!」


 縁から身を乗り出した雛は、見事に足を踏み外し、そのまま真っ逆さまに地面へと落ちてくる。

 反射的に僕は走り出していた。

 間に合うか!?

 制服が汚れるのも構わず、僕はスライディングをしながらも、なんとか雛をキャッチした。

 ふぅ、間一髪……。


「姉様!!」

「セレーネ様!!」


 慌てて駆け付けてくる2人に、僕は健在をアピールするように手のひらを掲げた。


「ギリギリ間に合いましたわ」

「もう、いきなりびっくりしたよ」

「さすがセレーネ様です!!」

「ええ、でも……」


 僕は遥か木の上を見上げ、巣の位置を確認する。


「巣に戻してあげなくちゃいけませんわね」

「でも、あの高さでは……」


 確かに、巣のある場所はかなり木の上の方だ。

 このままペットとして育てる、という選択肢もないことはないが、野生の生き物を安直に飼育するのは僕としては避けたいところ。

 それに、学園はペット禁止だし……エリアスは権力でなんとかしてるみたいだけど。


「うーん、きっとなんとかなりますわよ」


 僕は、立ち上がると、靴を脱いで素足になった。


「えーと……姉様。もしかして」

「ええ、ちょっと登ってきますわね」

「え、え、セレーネ様……!?」


 戸惑う2人を置き去りにして、僕はブレザーの胸ポケットに雛を入れると、そそくさと木の幹に取りついた。

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