045.お兄ちゃん、弟と出会わせる
「はぁはぁ……」
あーもう、まだ顔が火照っている。
アミールは距離感が近くて、どうにも苦手だ。
しかし、どういうことだろうか。
ルーナではなく、僕を歌姫にするつもり、なんて……。
なんにせよ、これでアミールとの出会いをも失敗してしまった。
つまるところ3連敗。
もはや、あとはない。
残る攻略対象キャラは2人だが、そのうちの1人は、学生ではないので、こちらから会いに行くことはできない。
だとしたら、もう残るは、"彼"に希望を託すほかない。
「もう、陽も落ちて来ましたね。セレーネ様」
「あの、ルーナ。良かったら、明日も放課後付き合っていただけないかしら」
「もちろんです!」
そんなこんなで、ルーナと約束を取り付けた僕は、再び、よし、と気合を入れ直した。
そして、翌日。
「姉様から誘っていただけるなんて」
「ええ、元気にしているかと思いまして」
放課後、アニエス伝手に、フィンと連絡を取った僕は、湖で落ち合っていた。
数日ぶりに会ったフィンは、学園の制服に身を包んでいる。
女子生徒と同様、ブレザータイプの制服で、フィンのふわふわの巻き毛にもよく似合っている。
「カッコよいですわね。フィン」
正直、僕もそちらを着たかったぜ。
「い、いえ、僕なんかよりも……」
なぜか、ごくりと、フィンが唾を飲み込む音がした。
「どうかしまして?」
「あ、いや、なんでもないんだ。姉様」
フィンはどこか誤魔化すようにかぶりを振る。
「と、ところで今日は、何を……」
「あ、実は、フィンに紹介したい方がいまして」
そう言って、手を振ると、やってきたのはルーナだ。
そう、今回僕は、もっとも安直な手段に出た。
フィンだったら、こちらの都合で呼び出せる。なら、普通に対面させられるじゃん、というわけだ。
今までは、変に原作に忠実に出会いを演出させようとして、墓穴を掘ってしまった。
だが、この方法ならば、確実にお互いを認識させることができる。
「えっと……この人は?」
「クラスメイトのルーナですわ」
「あ、あの……」
どうやら、フィンもルーナの名前は知っていたようだ。
平民ながら、聖女候補としてやってきたルーナは、いわば有名人だ。
男子生徒の間でも、噂くらいにはなっているのだろう。
「あ、あの、ルーナって言います!! セレーネ様にはとても良くしていただいています!!」
「そ、そうなんですね。ははっ……」
あれ、なんだか、フィンは、少し困った表情でこちらをちらちらと見ている。
「はぁ、同じ聖女候補と仲良くなっちゃうなんて。さすが姉様……」
「何か言いました?」
「何でもありません。えーと、僕はファンネル公爵家の長男、フィンと申します。以後お見知りおきを」
あくまで、形式的なあいさつで返すフィン。
うーん、もっと愛想よくしてくれてもよいのに。
「とりあえず、少し3人でお散歩しませんこと?」
「はい!!」
「えっと……姉様がそう言うなら」
そんなわけで、昨日も来た湖畔を3人で歩く。
色々話を振ってみるのだが、どうにも、2人の距離感が遠い。
それぞれが僕とは話してくれるのだが、なかなかフィンとルーナの間で会話が繋がらないのだ。
「フィン、ちょっと……」
たまらず、僕は、ルーナにベンチで少し休憩をしてもらっている間に、フィンを木陰へと誘導した。
「どうしたのですか。いつもならもっと愛想良くして下さるのに……」
「ごめん、姉様。でも、やっぱり……」
フィンは複雑な表情で目を伏せる。
「あの娘とは仲良くできないよ。だって、あの娘は、僕にとって敵だから」
「えっ……?」
ルーナがフィンの敵?
いやいや、なんでそうなる?
少なくとも、ゲームの世界では、フィンはルーナと対立するような要素はなかったはずだ。
もしかして、これも僕が聖女ムーブしてしまったことに関係しているのか……?
取り巻きの令嬢達と同様に、フィンも僕が聖女だと信じて疑っていない。その可能性はある。
何せフィン視点で見たら、僕は妹の命の恩人でもあるわけで……あー、もう、僕またやっちまってる?
「あの、フィン。ルーナちゃんは……」
何かフォローを入れようと口を開いたその時だった。
フィンはどこか決意をしたような目で、真っすぐに僕を見つめた。
吸い込まれるような紺色の瞳に、見つめられ、またもこの身体が、ビクリと反応し、自然と言葉を飲み込んでしまう。
「この際だから、言っておくね」
普段よりも、少し低めの声でそう言ったフィンは、僕へとグッと身を寄せた。
反射的に、半歩下がった僕の背中に、木の幹が当たる。
一瞬、後ろに気を取られている間にも、気づけば、フィンの右腕が僕の顔のすぐ横に伸びていた。
え、え、これって、もしかして……壁ドン!?
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。




