040.お兄ちゃん、やるべきことを整理する
さて、僕が前世の記憶を思い出してからの2年間で、妹と会話できたのは4回。
その間に、自身の破滅エンドを回避するために、一体どう動くのが正解なのか、妹からたくさんの助言を受けた。
まず考えたのは、学園への入学そのものを辞退すること。
学園にさえ来なければ、ヒロインと出会うこともなく、攻略キャラ達とも交流することはない。
となれば、ゲームの展開から逃れることができるのではないかと考えたのだ。
だが、僕は、すでに聖女候補であることを多くの人々に知られてしまっている。
聖女候補が、アルビオンに行かないという選択肢を周りは許してくれないだろう、というのが妹の見解であり、実際、父にそれとなく、もし私が学園に行かなかったら、と相談してみたが、冗談を言っていると思われて、まともに取り合ってくれなかった。
公爵令嬢であり、聖女候補でもある僕が、今更、学園への入学を無しにすることは不可能だった。
ゲームの展開にはどうしても入ってしまう。
ならば、どうすればいいのか。
4回目の機会まで縺れ込んだその話は、とあるエンディングを目指すということで結論となった。
『悪役令嬢であるお兄ちゃんが生き残れるエンディングは、このゲームにおいて、たった2つしかないわ』
「たった2つ……どんだけ不遇キャラなんだよ!!」
『セレーネはそういうキャラ付けが売りだから。とにかく、生き残るためには、恋愛エンドや聖女エンドに行っちゃダメなの』
「行ったら、どうなる?」
『そうね。例えば、ルカード様エンドを迎えた場合、セレーネが実は黒の魔力を持った偽聖女であることが発覚して、ルーナの聖なる力で焼き払われてしまうわね』
「え、嘘、僕、偽者なの……?」
『ルートによってはね。他にも、剣で刺されて死んだり、国外追放になった挙句餓死したり、まあ、碌な目には遭わないわね』
「マジで不遇すぎる!! た、助かるルートの方を教えてくれ!!」
『助かるルートのうち、1つはバッドエンドというやつね。ヒロインが誰とも結ばれず、なおかつ聖女試験にも負けてしまった場合、このルートに進むわ』
「な、なるほど、ヒロインにとっては、バッドエンドでも、僕にとってはハッピーエンドってわけか」
『そういうこと。でも、このルートでセレーネが聖女になった場合、大陸で戦乱が巻き起こるような状態になるから、平和な一生を送りたいなら、おすすめはできないかな。レオンハルト様含め、登場人物の一部も死んじゃうしね』
「そんな……」
『だから、狙うなら、もう一つの方──いわゆる、友情エンドってやつよ』
「友情エンド?」
『うん。このエンディングなら、誰も傷つかず、平穏に終われるはず』
「いったいどんなエンディングなんだ?」
『名前の通りよ。攻略対象キャラともお友達関係のまま、学園生活の続きを楽しもうっていうエンディング。このルートでは、ルーナは聖女試験にギリギリで勝つんだけど、聖女になるには、少し力が足りないかもしれない、ということで、セレーネが聖女の補佐官に納まるの。このルートのセレーネは、ファン達の間では、"きれいなセレーネ"なんて言われてるわね』
「きれいなセレーネ……」
『とにかく、このルートなら、お兄ちゃんは破滅しないどころか、聖女にもならず、王子とくっつくこともない』
「お、おおっ、まさに理想的なエンディングじゃないか!!」
『お兄ちゃんにとったらそうかもね。プレイヤーにとったら、何のご褒美もない、つまらないエンディングだけど』
「つまらないエンディング……ってことは、結構簡単に行けるんだよな?」
『ぶっぶー。実はこのエンディング、全てのエンディングの中でも、一番行くのが難しいのよ。攻略キャラ全員との親密度が40~60%に納まりつつ、なおかつ、聖女試験では、最終試験まで縺れ込んだ後に、ルーナがギリギリで勝利しなければいけないという制約もある。正直最も見るのが困難なエンディングよ』
「マ、マジか……」
『でも、実現不可能じゃないはず。親密度の調整はなかなか難しいかもしれないけど、お兄ちゃん、ステータスはかなり高いみたいだし、勝負の方は自分である程度勝ち負け調整できるだろうし』
「シビアそうだが、平穏な余生を送るためには、それしかないんだな」
『うん』
こういうことに関しては、事実しか言わないタイプの妹の言葉を真っ向から受け止め、こうして、僕は友情エンドを目指して奔走することになったわけだ。
「さて、となると、まずは、ルーナとレオンハルト達を出会わさなくちゃ」
友情エンドの条件には、ヒロインと対象キャラの親密度を中くらいに保たなければいけない。
恋愛に発展させるわけにはいかないが、お互いを知らないままでもいられないのだ。
各キャラクター達とのゲーム上での出会いは、妹からある程度聞き及んでいる。
レオンハルトとの出会いは……あとで、何か挽回の手段を取るとして、他のキャラとの出会いは確実にフラグを管理しなければ。
「入学パーティー以降で、物語が動き出すのは3日後……それまでに、ルーナちゃんの情報収集をしよう」
グッと拳を握りしめながら、僕は女子寮で初めての夜を過ごしたのだった。
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