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340.お兄ちゃん、手紙を受け取る

 それから少しだけ時が過ぎた。

 戦いでボロボロになった学園の復旧も進み、まだ完全でないものの授業も再開した。

 土木作業に紅と碧の騎士団の面々が協力してくれたことで、かなり早く学園は元の姿に戻ることができた。

 あまり頼りすぎてはいけないが、こういう時は、やっぱり魔法って便利だよなぁ、と感じる。

 さすがに白亜の聖塔ばかりは、すぐに修繕というわけにはいかなかったようだが、一応は僕らが卒業するまでの間になんとか建て直す目途をつけているらしい。

 アシュレイは1年生への編入を意外にもあっさりと認められ、晴れて僕らの後輩となった。

 学園の事は右も左もわからない彼だったが、ミアやシルヴィがかなり良くしてくれているようで、特に浮いた様子もない。

 むしろ、そのどこか憂いを帯びた(ように見える)雰囲気と無邪気な行動とのギャップから、ファンクラブが開設されかねない勢いらしい。

 うーん、息子がモテるのが嬉しくないわけじゃないが、まだまだ中身は子どもなので、あんまり変なアプローチはしてくれるなよ、女子達。

 僕の方はと言えば、聖女試験も無くなり、自由な時間も増え、なんだか拍子抜けするほどに安穏に暮らしている。

 いや、未だに白の教会からは聖女になって欲しいと言われ続けているのだが、とりあえずはルカード様の口添えもあって、行事だけは聖女の代行として参加するということで納得してもらっている。

 聖女という存在がいなくなってしまった教会は、未だ大混乱の最中らしく、連日話し合いが行われているようだが、果たしてどうなるか。

 ルカード様が言うように、聖女に頼らない国づくりへと、教会もシフトしていけるといいんだけどな。

 黒の領域の長大な跡地に関しては、コリックの介入もあり、色々と裏で話し合いが行われているようだが、こちらもどういう扱いになるのか決まるのかは、もう少し先の事になりそうだ。

 争点となるのは、正しい歴史の啓蒙活動が為されるかどうかだが、それらはそれぞれの国の偉い人達に期待するほかない。


「世は並べて事もなし……とは、なかなかいきませんわね」


 とはいえ、それが人生なのかもしれない。

 そう思えるほどには、この世界に転生してから、色々な事を経験してきた。

 今はそう、この一時の平穏を余すことなく、満喫するとしよう。

 ……そう思っていたのだが。


「セレーネ様、お手紙が届いております」

「手紙?」


 はて、また父からの手紙だろうか。

 色々あったせいか、父には心配をかけてしまったからな。

 いつもアホみたいに長い便せんを送り付けて来るので、忙しい時は放ったらかしになってしまっていたのだが、今回ばかりは、さすがに丁寧にいろいろと返事をしてあげないと申し訳がたたない。

 攫われたり、殺されたり、色々親不孝な事をしてしまったからなぁ。

 どんな風に返事を書こうかと、頭を捻りつつ手紙を受け取った僕だったのだが……。


「五枚もありますの……」


 それぞれ種類の違う便せんに包まれた五枚もの手紙に、思わず顔が引き攣る。


「まったくお父様ったら……」

「セレーネ様、それらの手紙はヒルト公爵様からのものではございませんよ」

「えっ?」


 確かに、冷静に考えてみれば、こんなに分けて手紙を投函する必要もない。

 慌てて差出人を見る。


「えっと……。エリアス、フィン、ルカード様、アミール、レオンハルト……!?」


 そう、それは五人の攻略対象達からの手紙だった。

 え、みんな、手紙じゃなくても、直接会えるのに、何で……?

 妙な胸騒ぎにドキドキしながらも、エリアスの手紙から目を通す。

 続いて、フィン、ルカード様と次々とその内容を黙読していく。

 最後のレオンハルトの手紙を読み終える頃には、僕の顔はすっかり茹蛸になっていた。


「こ、こ、こんな事、一斉におっしゃられても……」

「皆様、情熱的でいらっしゃいますね」


 シレっと、僕の読み終えた手紙に目を通したらしいアニエスはそんな事を言う。


「か、勝手に見ないで下さいまし!!」

「いえ、こればかりは、セレーネ様の未来の伴侶を決める大切な事ですので」

「は、伴侶……!?」


 そう、なのだ。

 攻略対象達から届いた五枚の手紙。

 そこは、いわゆる恋文だった。

 僕に対する想いを綴ったそれぞれの手紙。

 こそばゆいような、嬉しいような、時にちょっと涙が込み上げてくるような、内容も人それぞれで、それはそれで僕の胸を激しく高鳴らせた。

 そして、五つの手紙の最後には、全てこう綴られていた。

 明日のパーティーで、君の想いを教えて欲しい、と。


「来る時が来てしまったというわけですね」

「他人事のように言わないで下さいまし」

「私は、どのお方とご一緒になっても、これまで通り傍付きとしてお傍に置いていただくつもりですので」


 さも当然のようにそんな事を言うアニエスの気楽さに、恨みがましい視線を向ける。

 そんな僕に対して、アニエスはどこか姉のように普段は見せないような笑みを浮かべた。


「セレーネ様の御心のままに。私はどんなセレーネ様にもついていくだけですので」

「アニエス……」


 なんだか、ジーンと来てしまって、思わずアニエスを抱きしめてしまう僕。

 柔らかい感触となんだか優しい匂いが、高鳴っていた僕の心を少しだけ落ち着かせてくれた。

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