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339.お兄ちゃん、パパを迎える

「フェリックス王子……!?」


 あり得ない人物の登場に、僕は思わず目を見開く。

 彼の姿を見るのは、あの黒の領域を脱出した時以来だ。

 その後、ドラゴンに肉体ごと吸収されたと思っていた彼は、確かに今、僕らの目の前に立っていた。

 うん、足はある。幽霊じゃない。


「鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だな」

「え、えっ……?」


 カツカツを石畳に靴を鳴らして歩いてくるその雰囲気は、フェリックス王子というより、むしろ、彼が演じていたコリックそのもので……。


「い、今までいったいどうしていましたの!?」

「どうもこうもない。気づいたら、あの湖の底にいた」

「えっ……!?」


 指差す先は、今もまだ干上がったままの湖の中心だ。

 あそこは、確かフィンの大魔法でドラゴンが生き埋めになった場所で……。

 もしかして、メランがドラゴンの肉体を捨て去った時に、彼の肉体もまた、ドラゴンから摘出されていたのだろうか。

 そして、メラン達と同じように、あの光の雨に打たれて……。


「と、とにかく……!!」


 理由ははっきりしない。

 でも、今言えることはたった一つ。


「おかえり。パパ(コリック)!!」

「ああ、ただいま」


 僕とアシュレイの言葉に、コリックはこれまで見せたことがないような穏やかな微笑みで応じたのだった。




「はぁ、まさか、あんな事になるとは思いませんでしたわ……」


 碧の国の王子フェリックス。

 そして、またの名を黒の使者コリック。

 彼が生きていることにももちろんびっくりしたが、その後、彼が言ったことにはもっとびっくりした。


「私は、フェリックスという名を捨てるつもりだ」

「碧の国の王子という立場を捨てるおつもりですの?」

「ああ、すでに公式に俺は6年前に死んだ身だ。今更国に帰ったところで、居場所はない」

「そのようなことは……」

「それに、碧の国には、もう優秀な世継ぎがいるからな」


 そう言いながら、彼はアシュレイの肩を抱く。


「だから私は、コリックとして、アシュレイの黒の国再興に協力するつもりだ」

「パパ……」

「俺自身、黒の王の意思に触れたおかげで、わかったこともあった。このまま黒の国を無かったものとしてしまうのは、あまりに忍びない」


 アシュレイと同様、コリックも黒の王の力として一度吸収されたことで、黒の王の本当の意思のようなものを感じたらしい。

 頼もしい助っ人の登場に、アシュレイの目もキラキラと輝いていた。


「パパが手伝ってくれるなら、絶対に大丈夫な気になってきた」

「ああ、だが、あくまで私は補佐をするだけだ。黒の国をやがて治めるのは、お前だと言うことは肝に銘じておいて欲しい」

「う、うん……!!」


 厳しくも温かい言葉に、アシュレイが気を引き締める。


「それと、お前はまだまだ子どもだ。この学園に通い、見聞を広めることを私は勧める」

「えっ……?」

「あら、それは良いですわね」


 制服姿もなかなか似合っていたしね。

 地頭はかなり良いし、学園で学べば、かなりの学力が着くのは間違いない。

 国を治めるのにも、知識は必要だ。

 それに、何よりも同年代の学生達と交流することは、彼にとってどんなことにも代えがたい経験になるだろうし。


「でも、僕なんかの編入が許されるのかな……?」

「そこはドンと私にお任せ下さいまし」


 伝手はいくらでもある。

 伊達にいろんな国と結びつきがあるわけじゃありませんぜ。


「学園かぁ……」


 考えてもいなかったのか、今更、なんだかワクワクした様子のアシュレイ。

 僕自身、彼と一緒に学園に通うのは、とても楽しみだ。


「あれ、コリック?」

「色々と済ませておきたい要件がある」


 僕らへと背を向けたコリックは、颯爽と歩き去って行く。

 もしかしたら、メランと話に行くのかもしれない。

 彼とは色々と、話すべきことがあるだろうし。


「セレーネ・ファンネル」

「は、はい……!!」


 油断していたら、久しぶりに、あの教官めいた口調でピシりとお名前を呼ばれ、思わず背筋を正す。

 背中越しに、彼はゆっくりとした口調でこう言った。


「ありがとう」


 表情は見えない。

 でも、なんだかそこには、とても穏やかな笑顔が浮かんでいる気がした。

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