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338.お兄ちゃん、息子の決意を聞く

「アシュレイ!!」


 大好きな息子の声に、僕はすぐさま駆け出すと、彼の身体に抱き着いた。


「は、恥ずかしいよ。ママ……」


 チラチラと後方の仲間達へと視線を向けつつ、顔を真っ赤にするアシュレイ。

 仕方ないじゃないか。本気で心配したんだから。

 黒の王の依り代となったアシュレイは、肉体こそ全くの無事だったが、一度上書きされた精神が無事かどうかは確証がなかった。

 戦いの後、一度目を覚ました時に、彼が彼でいてくれた時はどんなに嬉しかったことか。

 その時はすぐに眠りについてしまったが、今はこうやって自分の足で立ち、普段通りに振舞ってくれている。

 それが何よりも嬉しい。 


「もう身体は大丈夫ですの?」

「うん。僕の中の黒の魔力もほとんど無くなっちゃったみたい」


 自身の手のひらを見つめるアシュレイ。

 メランから無理やりに受け継がされた黒の魔力だけではなく、彼自身が元々持っていた黒の魔力もどうやら瘴気と共にその大部分が消失してしまったようだ。


「つまるところ、もう黒の魔力はこの世界に存在しなくなったということか」

「とはいえ、またいつそれを持った子どもが生まれてくるかはわかりませんけどね」


 レオンハルトとエリアスの言葉を聞いてか、アシュレイは一瞬視線を下げると、再び僕の方へと顔を向けた。


「あの、ママ……」


 少しだけ口ごもるようなそぶりを見せたアシュレイだったが、すぐに決意したかのように口を開いた。


「ちょっとだけ、二人きりで時間を貰えない……かな」




 そこはアミールがよく楽器の練習をしている石造りの外壁の上だった。

 白の国の街々が一望できるその場所で、僕はアシュレイと共に、その美しい景色を眺めていた。


「本当に綺麗だね。ここは」

「私も、ここから見る白の国の風景は大好きですわ」


 立ち並ぶ白亜の壁の家々が、空の青と溶け合って、キラキラと輝いている。

 戦場を学園にした事で、街への被害はほぼゼロに抑えることができた。

 爽やかな風が、僕らの髪を揺らしていく。

 しばらく、ただ黙ってその風景を見つめていると、やがてアシュレイがおもむろに口を開いた。


「あのね。ママ。僕、決めた事があるんだ」


 いつになく真剣な表情のアシュレイは、僕の目を真っすぐに見つめ、こう言った。


「黒の国を僕の力で再興したい」


 言い切ってから不安になったのか、彼は言い訳するように手をブンブンと振った。


「いや、大それた事を言っているのはわかってる!! でも、その……昔の黒の王様の意思に触れた時に、ご先祖様の考えとか、色々なものを知ることができて……。その……」

「いいんじゃないですか」

「えっ……」


 あっさりと僕が認めた事に、彼は随分と拍子抜けしたようだった。

 僕も、聖女様の想いを知ったからこそ、それを黒の王へと何としても伝えたいと思った。

 彼もかつての黒の王の想いから、そうしたいと思えることができたということなのだろう。

 今までのように、ただ悪意の代弁者になるわけではなく、今度こそ、自分の意思で、過去からの想いを繋ぐ。

 それは、とても立派な夢のように僕には思えた。


「アシュレイがそうしたいと思うなら、私も応援致します」


 元々、彼の今後については、僕も出来る限り希望に沿いたいと思っていた。

 彼自身が自分でやりたいことがあるというなら、僕はそれを後押ししてあげるだけだ。


「ほ、本当にいいの……?」

「私は、あなたの事を信じていますから」


 自分の息子を信じられなくちゃ、親とは言えない。

 短い期間ではあったが、僕にもついに子離れの時が来たのだ。


「ありがとう!! ママ!!」


 抱き着いてくる息子を僕も全力で受け止める。

 うんうん、いや、本当に大きくなったなぁ。


「でも、アシュレイ。具体的に、どういったことから始めますの?」

「え? えっと、それはその……」

「まだ、考えられていないのですね」

「う、うん……」


 さっきまでの元気はどこへやら。

 途端にシュンとするアシュレイ。

 はは、やはり見通しの部分では、まだまだ子どもだな。


「それなら、俺がお前の事を補佐しよう」

「えっ……」


 背後から響いた、聞き馴染んだあの声に、僕はすぐさま振り向いた。

 立っていたのは、そう……。


「フェリックス王子……!?」

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