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336.お兄ちゃん、選択する

『感謝致します』


 光に包まれた空間の中に、穏やかな女性の声が響き渡った。


『お二人のおかげで、それぞれの世界は救われました』

「女神様……」


 光の雨が降り注ぐ中、気づけば、僕はどうやらあの白い空間へとやってきていたらしい。

 すぐ横を見れば、優愛の姿。

 そして、その顔には、どこか達成感がにじみ出ていた。


「お兄ちゃん、なんか凄いことしたみたいだね」

「お前こそな」


 健闘を称え合うように、お互いの手を打ち合わせる僕と優愛。

 でも、半透明の身体で触れ合うことは叶わず、スルリとすり抜け合ってしまう。

 その光景に、今更ながら妙に寂しい気持ちを感じていると、再び女神が口を開いた。


『お二人をこの場に召喚するのも、これで最後になります』


 わかってはいた。

 女神様の目的は、それぞれの世界を存続させること。

 それが叶った今、本来は交わることのないこの2つの世界をあえて交わらせる必要性はない。

 優愛と会えるのは、おそらくこれが最後になる。


『そして、目的が達成された今、あなた方が本来よく知る世界に送り直すこともできます』

「えっ?」

『二人の魂を入れ替えるという方法になりますが』

「そ、それって……」


 そちらは予想していなかった。

 つまるところ、僕と優愛の魂を入れ替えることで、生前良くプレイしていた本来のゲームの世界へと行けるということ。

 僕の魂は、アークヴォルト・オンラインの世界へ。

 そして、優愛の魂は、デュアルムーンストーリーの世界へ。


「お兄ちゃん」

「優愛」


 お互いに顔を見合わせる僕。

 破滅エンドも回避した今ならば、優愛もこの世界に来て、何か困ったりすることもないだろう。

 僕だって、あれだけ行きたいと思っていたアークヴォルト・オンラインの世界で、好き放題に冒険をすることだってできる。

 でも……。

 顔を見合わせたまま、僕らはお互いにコクリと頷いた。


「女神様、その必要はありません」

「うん、私達、このままの世界でいい。ううん、このままの世界がいい」


 それが、僕と優愛がそれぞれ出した答え。

 転生したばかりの頃の僕なら、絶対にそんな答えは出さなかっただろう。

 普通の男子高校生だったのに、何も知らない世界に女の子として放り出されて、困ったことだっていっぱいあった。

 でも、そんな僕を支えてくれるみんながいた。

 もう僕には、あの人たちがいない世界なんて、考えられない。

 そして、それは、きっと優愛も同じだった。


『本当に宜しいのですね?』


 しっかり確認するように問い掛ける女神の言葉に、僕と優愛はまったく同じ所作で頷いた。


『わかりました』


 その声を最後に、光が遠ざかっていく。

 最後に、僕はもう一度だけ、優愛と視線を交わした。


「優愛、思いっきり楽しめよ。"お前の"世界を」

「お兄ちゃんこそ、ちゃんと誰か選ばないとだよ。優柔不断はダメだからね」


 穏やかな笑みを浮かべた優愛の顔が、フッと光へと溶けた。

 最後まで、優愛は優愛らしかったな。

 さようなら。僕の前世の妹。


『輪廻は巡る。やがて、それぞれの"生"を全うした時、再び会える未来もまた……』


 意識が途切れる刹那、女神のそんな声が、聞こえた気がした。

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