335.お兄ちゃん、想いを伝える
黒と白のぶつかり合い。
振り下ろされた瘴気の剣と振り上げた白き聖剣の威力はほとんど互角だった。
拮抗するエネルギーが、空中で激しくスパークする。
「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「がぁあああああああああああああっ!!!」
全てを振り絞るが如く、力を込める黒の王とレオンハルト。
ギリギリの戦い。
もうあと一歩。
あと少しだけ、レオンハルトを後押しすることができれば……。
「ララー♪」
その時、僕を支えながら、ルーナが歌を紡いだ。
アミール様の伴奏に乗せて歌う僕と同じように、彼女もまた力を込めた歌声を空へと響かせる。
それを聞いた仲間達が、一人、また一人と歌い出した。
エリアスが、フィンが、ルカード様が。
倒れたアニエスもまた、身体を持ち上げながら、僕らの歌に声を合わせる。
心地よいハーモニーがその場を満たす。
僕以外には、歌に魔力を乗せるなんて芸当ができるわけじゃない。
それでも、みんなで一緒に紡ぐその歌には、確かな"力"が満ち満ちていた。
レオンハルトの剣に、さらなる力が宿る。
「黒の王よ」
剣を振り上げた姿勢のまま、フッと笑ったレオンハルトは、どこか穏やかな表情で語り掛ける。
「どうやら一人で強くなる必要はなかったようだ」
勇者とは、自分一人が強ければよいというわけじゃない。
仲間の力を集め、戦うことこそが勇者の証。
それを体現するかのように、レオンハルトは僕と、そして、仲間みんなの力を集めた聖剣を今、振り抜いた。
それは、ごく自然に、当たり前のように。
振り抜いた剣の軌跡が、瘴気を引き裂いていく。
巨大な瘴気の剣を真っ二つに割いた白き閃光は、やがて黒の王へと直撃した。
「がぁあああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」
白き光に包まれた黒の王のその身から、大量の瘴気が剥がれ落ちて行く。
そして、彼はゆっくりと地面へと降り立った。
「あぁ……チカラ…がぁ……」
レオンハルトの一撃で、大量の瘴気を失った黒の王が、力なく地面へと膝をつく。
あと一太刀でも浴びせれば、黒の王を確実にこの世から消し去ることができるだろう。
でも……。
レオンハルトが鞘に聖剣を納める、カチンという金属音が響いた。
そして、マントを翻しながら、黒の王へと背を向ける。
わずかに鼻から息を吐いた彼の瞳が、少しだけ笑うように僕を眺めていた。
それは、最後の選択を僕に託すと、そう言ってくれているようだった。
僕は首肯すると、支えてくれていた二人に、もう大丈夫だと笑顔を向け、一歩、また一歩と黒の王へと近づいていった。
虚脱したように、全く動くそぶりのない黒の王。
だが、僕が近づいていくと、再び攻撃的な視線をこちらへと向けた。
「黒の王」
「せい……じょ……!!」
黒の王ノワール。
今の彼は彼そのものではない。
消えゆく最中、彼の中にあった暗い感情だけが遺ったもの。
それが意思を持ったものだとフェリックス王子は言っていた。
だったら、僕ができることは……。
「あっ……」
猛る視線から目を背けず、それでも僕は、ゆっくりと彼の身体を抱きしめた。
「ごめんなさい。ノワール」
伝えるのは謝罪。
そして、それは、僕の言葉ではなく、白の根源の中にずっと受け継がれ続けていた言葉だ。
初代聖女セフィーラ様の本当の想い。
白の根源を受け継いだ僕には、それを伝える義務がある。
「本当はずっとずっとわかっていたのに、私には世界に背く勇気がありませんでした」
僕の口から紡がれるその言葉は、少しだけ震えていた。
「あなたの覚悟に甘え、全てを背負わせてしまった」
「セフィ……」
その名を呟くと同時に、黒の王の瞳に自我の輝きが戻る。
「私の想いは、ずっと変わることはありません」
白の根源の中にある聖女の意志が、僕の身体を突き動かす。
穏やかな微笑みを浮かべた僕は、そのまま目を閉じると、黒の王の唇へと自分のそれを重ねた。
ほんの短い時間の優しいキス。
200年以上を隔てたくちづけには、積み重なったたくさんの想いが籠っていた。
互いの唇と唇を離した時、僕の中の聖女様は、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「これからはずっと一緒にいます。ううん、いさせて下さい。あなたの傍に」
「あ、ああ……」
その時だった。
黒の王に残った瘴気と僕の中の白の根源が、それぞれの身体の中から抜け出していく。
白と黒はお互いに混ざり合いながら、空へと光になって溶けて行く。
やがて、それは弾けるように、仄かな光の雨を降らした。
柔らかな光が、その場にいた全ての者を癒していく。
そして、僕には聞こえた。
黒の王ノワールと聖女セフィーラ。
2人の声が確かに。
『ありがとう』
降り注ぐ光の雨の中で、僕らはずっと、ずっとその美しい輝きを眺め続けていた。
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