333.お兄ちゃん、聖女になる
「……あっ」
パチリと目を開ける。
すると、視線の先には、泣きじゃくるヒロインの顔があった。
「ルーナちゃん……」
「ゼレーネざばぁあああああっ!!!」
鼻水を垂らしながら、僕へと抱き着いてくるルーナ。
そうか。僕は……。
「あなたの癒しの力で、なんとか踏みとどまることができたのですね」
手で触れると、貫かれた腹部の傷はすっかり元通りになっている。
ほとんど即死だったはずなのだが、ルーナがよほど力を振り絞ってくれたのだろう。
そのおかげで、僕はこうやって、またこの世界に戻ってくることができた。
だけど……。
意識せずとも、周囲の惨状が眼に入る。
聖塔は倒され、その場にいた騎士達のほとんどがすでに戦闘不能状態。
その中には、アミールやエリアスの姿もあった。
レオンハルトも未だに気を失ったままだ。
そして、アシュレイはというと、アニエスを中心としたわずかばかり残った面々を腕のひと薙ぎで蹂躙していた。
ケラケラと笑うその姿は、まるで小さな子供が遊んでいるかのようだ。
「あはははっ!!! あはははははっ!!!」
無邪気な笑い声を上げながら、瘴気で騎士達を吹き飛ばすアシュレイ。
アニエスは奮戦しているものの、瘴気の壁の前では全く攻撃を届かせることができていない。
今の彼は、さっきまで戦っていたメランよりも、さらに強いのは間違いない。
「ルーナちゃん。私はもう大丈夫です!! 皆様を!!」
「で、でも……」
「さあ、早く!!」
完全な黒の王となったアシュレイには、もう白の魔力の効果はほとんどないかもしれない。
それでも、だからといって、ここで諦めるわけにはいかない。
少しでも彼女をサポートするために、僕自身も白の魔力を解放しようとした時だった。
『えっ?』
ルーナと僕の声がかぶる。
同時に、僕達は顔を見合わせた。
「白の根源が……」
「まさか、そんな……」
胸の中に湧き出してくるような清涼な力。
今までの自分には無かったその神聖な魔力は、間違いなく、白の根源に他ならない。
ルーナが継承したはずの白の根源が、なぜか今僕の中にある。
一瞬困惑した様子のルーナだったが、すぐに、私へと強い視線を向けた。
「セレーネ様」
名前を呼ばれ、僕は頷く。
そして、ルーナへと背を向けた。
僕を助けるために、力を振り絞ったルーナ。
その影響なのかはわからない。
でも、白の根源は聖女であるルーナから、僕へと受け継がれた。
胸の中に灯る、新たな光に身を委ねる。
……感じる。
これが、初代聖女様の意志?
『ごめんなさい』
『許して下さい。貴方だけを犠牲にしてしまった私達を……』
『ノワール、貴方と添い遂げたかった』
『未来永劫、私はその罪を背負い続けます』
白の根源の中に遺された、聖女セフィーラ様の様々な想いが、痛いほどに伝わって来る。
その大部分を占めるのは後悔と、そして、償いの感情。
ずっと、ずっと、200年以上もの長い時を、聖女様はその力を受け継がせると共に、自分を責め続けていたのだ。
胸の前で僕はグッと拳を握る。
もう楽にしてあげよう。
聖女様も、黒の王も。
だって、そんなの悲しすぎるから。
「黒の王……」
もはや息子の面影すらなくなってしまったその姿を僕は真っすぐに見据える。
「全てを終わらせます」
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