329.お兄ちゃん、力を使い果たす
「レオンハルト様!! レオンハルト様!!」
己の役割すら忘れて、倒れ伏す彼へと駆け寄った僕は、ひたすらに名前を呼ぶ。
だが、反応はない。
傷口からは絶え間なく血が流れ続け、体温がどんどん失われていく。
瀕死と言っても差し支えない状態。
僕はすぐさま、白の魔力で治療を試みる。
早くしないと、彼が……!!
焦る気持ちすらも力に変えるつもりで、僕は全ての魔力を振り絞る。
すると、やがて傷口は塞がり、顔にも血色が戻ってきた。
良かった。なんとか、一命はとりとめた。
ホッと息を吐いたのも束の間、冷たい指が、僕の首を掴んだ。
そして、そのまま宙へと持ち上げられる。
「うっ……」
「セレーネ様!!」
すぐ駆け付けて来ようとするルカード様達を瘴気が阻む。
もがきつつも横目で見ると、そこにはどこか疲れた顔をしたメランがいた。
「はぁ……はぁ……。まったく、ギリギリで自我を取り戻せたよ」
「メ……ラン」
「危なく紅の王子に殺されるところだったけど、あと一歩及ばなかったねぇ」
そう言いつつ、ギリギリと僕の首を絞めて来る。
爪の先が肉に食い込み、首から血が流れる。
呼吸もままならなくなり、僕は苦悶の表情を浮かべた。
「貴様!! セレーネ様から手を放せ!!」
「おっと、少しでも動けば、その大切なセレーネ様はあの世に旅立つことになるけど」
「くっ!?」
完全に人質として利用されてしまった僕。
誰もが、手を出すことを躊躇し、場は完全にメランに支配されている。
「もう少し遊んでやりたいところだけど、時間がないんだ」
普段は飄々とした表情でこちらをもてあそんでくるメランだが、今の彼にはそんな余裕が感じられない。
おそらく、もう肉体が限界に近づいているのだろう。
早く力を受け渡さなければ、彼はほどなく朽ちる。
だからこそ、彼の様子には明確な焦りが見て取れた。
「この女を殺されたくなければ、さっさと黒の王を──」
「連れて来る必要はないよ」
えっ……。
誰も、視線を向けたその先に、当然の如く立っていたのは……。
「アシュレイ……」
聖塔の扉から、数名の僧兵、そして、聖女であるルーナとともに現れたのは、アシュレイだった。
学園の白い制服に身を包んだ彼は、どこか決意に満ちたような表情でその場に佇んでいる。
「おおっ、黒の王よ……!!」
メランが嬉々とした表情を浮かべた。
「メランおじさん。ママを離してよ」
普段よりも低く、怒りを滲ませた声が響く。
だが、そんなアシュレイの様子も、メランはさして気にした風でもなく、狂ったように笑い声を上げた。
「あはは!! 自分から現れてくれるなんて!! 本当にお前は"良い子"だよ。アシュレイ!!」
「早く離せって言ってるだろ」
瞬間、アシュレイの身体から激しい瘴気が迸った。
黒の王の肉体となるべく生み出されたアシュレイ。
単なる器というだけではなく、その内には、かなりの黒の魔力が内包されている。
それを見て、メランの瞳から涙がこぼれた。
「ああ、素晴らしい……。本当に素晴らしいよ。黒の王」
感動に打ち震えるように、嬉し涙を流すメラン。
そんな彼をアシュレイは、鋭い視線で睨みつけていた。
「さあ、早く。その肉体を……」
乱暴に僕を放り出し、アシュレイへと手を伸ばすメラン。
そして、アシュレイも一歩一歩メランへと近づいていく。
「いけません!! アシュレイさん!!」
ルーナがそう声をかけるもののアシュレイは歩を止める様子はない。
誰もどうすることもできず、やがてメランとアシュレイは、手を伸ばせばすぐに触れ合えるほどの距離で対峙した。
「黒の王……」
万感の思いの籠もった口調で、その名を呼ぶメラン。
「ア……シュレイ……」
ダメだ。アシュレイ。
このままじゃ、お前の意思は……。
必死に彼の元へと駆け付けようとするが、メランに触れられた僕の身体は、瘴気に侵されないようにするだけで精一杯。
いくら身体を動かそうとしても、身を捩る程度のことしかできない。
歯を食いしばる僕のその前で、ついにメランの手がアシュレイへと触れた。
「さあ、黒の力を、今こそ」
瞬間、メランの中に蓄えられた大量の瘴気が、アシュレイへと流れ込んだ。
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