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327.お兄ちゃん、碧の王子の覚悟を見る

 誰もが言葉を失う光景だった。

 神々の一撃かの如く、天から降り注いだトドメの一撃。

 隕石のように湖を穿った氷塊は、その質量を遺憾なくドラゴンへと叩きつけた。

 湖だったそこには、もはやその面影はなく、巨大なクレーターが穿たれている。

 周囲には、バラバラに割れた氷の粒が、雨のように降り注いでいた。


「はぁはぁ……」


 息を切らし、倒れかけたフィンをルカード様が支える。


「大丈夫ですか?」

「あ、はは……少し、やり過ぎましたかね……」


 ミアの髪に溜められた膨大な魔力を全て出し尽くした大魔法。

 その発動者であるフィン自身も、あまりの威力に驚いているようだった。


「学園、ボロボロにしちゃいました」

「ですが、今ので決着が着いたようです」


 全員が呆然と見守るその先には、割れ残った氷塊だけが静かに佇んでいる。

 あの質量をそのまま受けて、生きていられる生物などいるはずもない。


「確認を」


 エリアスが、兵士たちに指示を飛ばす。

 何人かの兵士が頷き、ドラゴンが立っていたその場へ駆け出そうとしたその時だった。

 背筋にゾクリと悪寒が走る。

 それとほぼ同時に、エリアスの傍らにいたシャムシールが激しく鳴き声を上げた。


「まだです!!」


 僕の声に反応して、レオンハルト達が再び剣を構える。

 そして、今度こそはっきりとわかるほどの瘴気が氷の奥から噴き出した。


「あれは……」


 漆黒の炎で溶かされていく氷の壁。

 徐々に表れたその姿は、もはやドラゴンのものではなかった。

 一歩一歩こちらへと歩を進めるその姿は……。


「メラン……」


 髪を逆立て、化物のように赤い目を剥いたメラン。

 獣のような唸り声をあげ、彼はゆっくりとこちらへと歩んでくる。


「ドラゴンの肉体を捨て去ったか」

「ですが、瘴気は……」


 アニエスの言うように、ドラゴンが内包していた瘴気は、そのままメランの肉体にも引き継がれている。

 いささかも衰えることのないその力は、徐々にこちらを飲み込もうと侵食し始めた。


「ラー♪」


 白の魔力でそれを中和するものの、あまりに強い瘴気の力に押し返されそうになる。

 ドラゴンの姿をしていた時よりも、むしろ強くなっている……?


「ようやく姿を現したな。俺が相手をする!!」


 レオンハルトが一人、聖剣を携え、メランに対峙すると、最初から全力とばかりに聖剣の炎の力を解放した。


「ぐ、がぁっ!!」

「自我を失っているようだが、遠慮はしない。はぁあああっ!!!」


 レオンハルトが聖剣を腰だめに構えて突進する。

 だが、ふいにその足が止まった。


「くっ!? これは……!!」

「瘴気の壁……?」


 あまりに密度の濃い瘴気が、物理的な壁となって、レオンハルトの攻撃を阻む。

 やはりそうだ。

 ドラゴンの肉体を捨てた事で、メランの力は一層強まっている。


「あああああああっ!!!!!!」


 天へと咆哮すると同時に、再び瘴気が吹き荒れる。

 誰も近づくことのできない小さな台風。

 レオンハルトに続き、アニエスや他の騎士達もメランへと飛び掛かっていくが、近づくことすらままならない。

 いや、それどころか……。


「うわっ!? 腕が!!」

「くそ、瘴気が……纏わりついて……!!?」


 騎士達が次々と瘴気に侵され始める。

 ダメだ。僕の白の魔力が、完全に押され始めている。


「ララー♪」


 龍脈の力を引き出しつつも、僕は全力で白の魔力をコントロールする。

 瘴気の侵攻を食い止めつつ、なんとかメランの黒の魔力を弱められないかと奮闘するも、仲間達を護ることで精いっぱいだ。

 だが、同時にメランは明らかに苦しんでいた。

 黒目の無い瞳は充血し、身体中に血管が浮き出している。

 自我は一切感じられず、ただただ一歩、また一歩と本能に従うかのように聖塔へと近づいて来るだけだ。

 もう彼の命はそう長くはない。

 だが、その残りわずかな命で、彼は必死にこちらへと向かってきていた。


「メラン……」


 痛々しいその姿に、今更ながら、本当にこの道しか無かったのだろうか、という思いが湧き上がってくる。

 彼の恨みは深い。

 たった十年少ししか生きていない僕らなんかの言葉では、決して、慰めてあげることなんてできないほどに。

 それでも、もっと尽くせる言葉があったのではないだろうか。

 こんな風になる前に、彼を止められる術が、他にあったのでは……。


「セレーネ様!!」

「はっ!?」


 気づけば、メランとの距離が随分と縮まっていた。


「その場を離れて!!」


 彼我の距離はどんどん近づいてくる。

 だが、僕の背後にあるのは、聖塔だ。

 ここで僕が退けば、アシュレイはすぐにメランの手に落ちてしまう。

 絶対に通さない。

 そんな強い意志で錫杖を構える僕の前に、エリアスが両手を広げて立ち塞がった。


「エリアス様!!」

「セレーネ様。これ以上は無理です。お逃げ下さい!!」

「ですが……」

「あなたが引かないというのでしたら……」


 自分が盾になる。

 言葉は紡がずとも、それを体現するように手を広げる彼の傍らでは、今にも飛び掛からん勢いで、シャムシールも猛っている。

 

「エリアス様。ダメです!!」

「いえ、こればかりは譲れません」


 わずかに顔を伏せたエリアスの口元が、少しだけ微笑んだ。


「あの時、あなたは僕の盾になってくれました。だから、今度は、僕があなたを護る盾となります」


 確かな決意を秘めたその力強い言葉に、僕の胸は、ただただ熱くなっていた。

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