325.お兄ちゃん、ドラゴンに対峙する
それは、さながらロボットアニメに登場するレーザー兵器のようだった。
プールで感じるような青臭い匂いが一瞬鼻をついたと思った直後、目の前で紫色の光が弾けた。
同時に、防御障壁とブレスのぶつかり合う軋むような轟音が耳朶を打つ。
メキメキと軋み、削り取られていくかのような障壁。
限界まで魔力を振り絞った僧兵達が一人、また一人と膝をついていく。
だが、そんな中で、誰よりも激しく魔力を立ち昇らせる者がいた。
ルカード様だ。
いつしかトレードマークである眼鏡が吹き飛ばされたその顔には、普段の穏やかさからは想像もつかないほどに必死な表情が浮かんでいた。
「はぁああああああああああああああっ!!!」
気迫の籠もった叫びが、どす黒い光の中に響き渡る。
そして、天を裂くかのような破砕音が遥か後方で炸裂した。
過ぎ去ったブレスの余波だけで、周囲の土地が抉り取られ、学園の外壁が崩れている。
なんとかしのぎ切った僧兵達は、誰もがその場に跪いていた。
「ルカード様!!」
龍脈の関係上、その場からあまり動かないよう指示されている僕は、蹲った彼の背中に向かって、せめても声をかける。
脂汗を浮かべながらも、ルカード様はわずかに微笑んでくれた。
「大丈夫です。ですが、二度目はもう……」
「動きを止めます!!」
ルカード様を信じて、ずっと自身の魔力を練り続けていたフィンが、その力を解放する。
冷気が周囲に迸ったかと思うと、普段の半分ほどの水位となっていた湖が一瞬にして凍り付いた。
同時に、ドラゴンの半身も氷に埋まり、身動きが取れない状況を作り出す。
「足場は確保しました……!!」
ほとんどの魔力を振り絞ったであろうその大魔法に、さすがに疲労の色を見せるフィン。
だが、彼のおかげで、攻勢に出る準備は整った。
「紅の騎士団の皆さん!!」
「行くぞ!! ブレスを放つ隙を与えるな!!」
レオンハルトを筆頭に、紅の騎士団の面々が凍った湖面へと飛び出して行く。
フィンの大魔法により、動きの鈍ったドラゴンはその数とスピードに対処できない。
巨体の至る所で剣閃が煌めき、次々とその漆黒の身体に傷跡を増やしていく。
だが、厚い瘴気で常に護られているせいか、なかなか致命傷は与えられていないようだ。
「しっぽが来るぞ!!」
「うわぁああああっ!!」
大きく振り回したドラゴンのしっぽでの一撃に、十名ほどの騎士達が湖の縁まで吹き飛ばされた。
慌てて、白の魔力で治療をする僕。
傷を癒すと何人かはすぐに戦線に復帰したが、半分ほどはそのまま気絶してしまったのか、身動きが取れていない。
「気絶した騎士達の回収を!! 碧の騎士団は隙を見て、属性魔法を!!」
指示を飛ばすエリアスの声にも、焦りが募る。
やはりあのドラゴンの力は凄まじい。
黒の領域全ての瘴気を吸収した上に、黒の使者であるメランの力までも加わっているのだから、当然と言えば当然だ。
このまま騎士達が少しずつ戦線を離脱していけば、やがて、押し切られてしまうことだろう。
「ああっ!!」
そう言っている間にも、また数名の騎士がドラゴンの爪の餌食となる。
誰一人犠牲者を出さぬよう、僕も全力で治療を行いながら、戦況を見守る。
少しずつ押され始めた騎士達の中で、レオンハルトとアニエスが奮闘していた。
「はぁあああっ!!」
アニエスが蛇腹剣を鞭のようにしならせ、ドラゴンの首へと巻き付けた。
そして、紅の魔力を全力で纏うと、しなる首を固定するかのように強く引く。
「レオンハルト様!!」
「ああ!!」
アニエスの声を受けて、レオンハルトがドラゴンの脳天に向かって跳躍した。
紅の魔力無しでも、まるで弾丸のように飛翔するレオンハルト。
そんな彼の持つ聖剣から、紅蓮の炎が迸った。
かつてドラゴンを狩ったと言われる聖剣レーヴァテイン。
かの聖剣の力を解放したレオンハルトは、身を捻らせ、弧を描くような軌道でドラゴンへと肉薄すると、その灼熱の刃でドラゴンの首を斬りつけた。
瞬間、空気が膨張するかのような破裂音が、周囲に響く。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!!」
レオンハルトが裂帛の気合を剣へと籠める。
黒の瘴気による反発力をものともせず、紅蓮に燃える刃が、その肉へと少しずつ、少しずつ食い込んでいく。
かつて大陸で悪さをするドラゴンを倒したという初代レオンハルトは、その首を断つことで勝利を収めたという。
まさにそれを再現するかのようなレオンハルトの剣に、その場にいた全員が、期待の眼差しを向けていた。
だが……。
「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
耳を劈くようなドラゴンの咆哮。
同時に、その身体に纏った瘴気が一層膨れ上がった。
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