324.お兄ちゃん、迎撃する
「あれか!!」
「くっ!? この距離で……もう……!?」
白の国のあるテーブルマウンテンから南の空。
そこには今、漆黒の翼をはためかせたドラゴンが佇んでいた。
距離が遠いので、はっきりとはわかりにくいが、その大きさは、最後に黒の領域でその姿を見た時よりも、さらに大きいのではないかと思う。
そして、その巨体に見合うだけの恐ろしく密度の濃い瘴気が、身体から常に漏れ出し、その影響はすでにこの学園まで及んでいた。
「これほどまでとは……」
エリアスが歯噛みするほどの圧倒的な瘴気。
元々聖女であるルーナの白の根源に護られているはずのこの土地において、これだけの効果を及ぼすとは……。
メランとコリックが得ていた白への耐性。
彼らと一体化したドラゴンにも、どうやらそれは継承されているようだ。
黒の領域全ての瘴気を内包したその存在感は、これまで感じた事のあるそれとは、比較にならない。
でも……。
「ラー♪」
歌に乗せ、僕は自身の魔力を解放する。
同時に、苦し気な表情を浮かべていた周りの兵達の顔つきがフッと和らいだ。
「これは……」
「やはり、セレーネ様の白の魔力は凄い……!!」
剣戦の時にお世話になったあの若い騎士が瞳を輝かせながら、そんなことを言う。
彼を含め、周囲のみんなを安心させるように、僕はニッコリと微笑んだ。
うん。今の僕の白の魔力ならば、あの地獄の底の如き濃厚な瘴気にも、なんとか対応できる。
範囲を学園内に絞っているのもあるが、何より、自分の魔力がかなり成長しているのを僕は感じていた。
メラン達は、腕輪を利用することで、僕の魔力から白への耐性をつけた。
小さな反発を受け続けることで、徐々に抵抗力を上げて行くという方法だ。
だが、それは同時に、僕自身の白の魔力を強化することにも繋がった。
2カ月もの間、瘴気漂う黒の領域の中で生活し、なおかつ腕輪により吸われ続けた僕の魔力は、その環境への抵抗から知らず知らずのうちに強くなっていたのだ。
元々、攻略対象達のおかげで、チートレベルに達していた僕の白の魔力だ。
さらに鍛えられた今ならば、あるいは白の根源を継承したルーナ以上に、やれることもあるかもしれない。
「皆様、油断なさらぬよう」
錫杖をシャンと鳴らすと、兵達はハッとしたように、青空に舞う黒点へと視線を向けた。
アシュレイの正確な位置を特定しようとしているのか、空中に浮遊したままのドラゴン。
その瞳が、にわかに紅く輝いた。
「来ます!!」
エリアスの声が響いたと同時に、ドラゴンが巨体に似合わぬスピードで、こちらへと迫ってきた。
速い。
黒い残像を残しながら、迫って来るドラゴンに対応して、碧の騎士団の面々が魔力を練り上げる。
「碧の騎士団、一斉掃射!!」
空中から物凄い勢いで襲い来るドラゴンに、数十人の碧の騎士団員が練り上げた属性魔法が炸裂した。
幾本もの鋭い氷塊が道を阻み、嵐が巨体を押し返す。
そして、太陽のように巨大な炎塊が脳天に炸裂したかと思うと、派手な爆発音がその場に響いた。
さながら、花火のようなそのオレンジ色を眺めている間もなく、エリアスの指示で、今度は投擲武器が次々と射出される。
バリスタの矢が絶え間なく空中を奔り、爆発魔法の込められた石弾が、トレバシェットで撃ち出される。
ドラゴンの巨体はさながら的だ。
空中で静止した漆黒の身体には、次々と火が穿たれ、やがてモクモクと上がった煙によって、見えなくなった。
視認できなくなってからも、攻撃の手を緩めることのないエリアス。
どうせ地上に降りてしまえば、ほとんどの武器は使い物にならなくなってしまう。
ならば、全ての武器を使い切る。
勢いのままに攻撃を続けた結果、やがて、煙に包まれたドラゴンの高度が落ち始め、学園の中央にある湖へと落下した。
湖面が弾ける爆音と上がるしぶきが波のように周囲に押し寄せるが、皆微動だにせず、その様子を見守っている。
攻撃で発生した熱のせいか、湖面から音を立てながら水蒸気が舞ってゆく。
未だ視界の冴えない湖の中央で、大気が揺らいだ。
「来ます!! 障壁展開!!!」
エリアスが指示を出し、ルカード様を中心とした僧兵達が、魔力の防御壁を展開する。
出来る限り障壁を小さく、分厚く展開することで、防御力を上げる。
兵達は、投擲武器は放棄し、全員が塔の麓へと集まった。
そして……。
「くっ!?」
紫焔の如き閃光が、目の前で爆発した。
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