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323.お兄ちゃん、未来を語る

「緊張してきたね。姉様」


 同じく隣に立つフィン。

 一学生である彼もまた、今回の戦いに志願していた。


「フィン、今からでも、あなただけは安全な……って、むぐ!?」


 最後まで言い終える前に、彼の細い人差し指が、僕の唇に添えられた。


「言わせないよ。だいたい、姉様だけ危険な目に遭わせて、僕だけ逃げるなんて、出来ると思う?」


 有無を言わさぬ口調でそう告げたフィンに、僕も思わず、目をぱちくりとさせた。


「そうですわね。フィンはそういう弟でした」

「わかってくれて何より」


 ニッコリ笑うフィン。

 その飄々とした表情には、出会った頃のどこか頼りない雰囲気など、微塵も感じられない。


「この戦いが終わったら、また、姉様達と女子会でもしたいな」

「そう言えば、フィーともご無沙汰ですものね」

「久しぶりにファッションショーするのもいいかも」

「いいですわね!!」


 今年はミアやシルヴィもいるし、ますます楽しくなりそうだ。


「ほう。ファッションショーか。面白そうだな」


 そう言いながら、やってきたのはレオンハルト。

 その横には、ルカード様とアミールの姿も見える。


「レオンハルト様も、ご興味が?」

「いや、さほどというわけではないが、セレーネが綺麗な姿をしているのは見たい」


 一直線な視線でそんなことを言うものだから、途端に僕も頬が熱くなる。

 ほんと、なんだか戻って来てから、益々レオンハルトがストレートになってきているような……。


「どうせなら、殿下達の御召し物もお仕立てしましょうか?」


 何気ないフィンの一言に、思わずびくりと反応する。

 え、なにそれ、めっちゃ面白そうやん。

 フォーマルな格好だけでなく、カジュアルだったり、中二病的なファッションに身を包んだ男性陣……。

 想像するだけで、上がるんだが。

 と、勝手に妄想して悶えていると、ルカード様と目が合った。

 彼はどことなく苦笑いを浮かべながらも頬を掻いている。

 そう言えば、去年の秋に、ルカード様に学生コスプレさせたことがあったのをふと思い出す。

 あの時は、ロールプレイなんかもして、ルカード様に学生気分を味わってもらったんだよなぁ。

 あんな風に、キャラ作って遊んでみるのもまた面白いかもしれない。

 ふふっ、と少し笑いつつも、二人だけの秘密ですよ、という意味も含めて口元に指を添えると、ルカード様もホッとしたように微笑み返してくれた。


「んだよ。何、通じ合ってんだ。お二人さん」

「アミール様には関係ありませんわ」

「なんか、感じ悪いぞ」


 しれーッとした視線を向けて来るアミールに、僕も同じような視線で返す。


「というか、アミール様はなんでここに?」


 戦闘要員ではないアミールには、ここで為すべき役割など何もないはずなのだが。


「べ、別にいいじゃねぇか」


 決まりの悪そうに、そっぽをむくアミール。

 ふむ、どうやら自分だけ仲間外れにされるのが、寂しかったようだ。


「あらあら、お可愛いこと」


 冗談めかして、アシュレイにやるように頭を撫でてやると、意外な事に彼はそれを受け入れてしまった。


「え、えーと……」


 どこで止めたものかと、困り始めていると、彼は無造作に僕の腕を浮かんだ。

 そして、そのままジッと僕の顔を見つめる。


「お嬢様」

「は、はい……」

「俺も、あのアシュレイって奴の傍についててやる」

「えっ?」


 つまり、彼も聖塔の地下室に行くということ?


「自分が何もできやしねぇってことはわかってる。でも、お前らが身体張ってるのに、自分だけ何もできないなんて、もう嫌なんだよ」


 苦し気に拳を握るアミール。

 戦争の際は、直接的に僕を助ける手助けができなかったこと。

 それを、彼はずっと悔いていたようだ。


「アミール様。私、アミール様の音楽も舞台も、大好きですわよ」

「なんだよ。藪から棒に……」

「貴方という人がいる。それだけで、私の"生きたい"という思いは、ずっと強くなった、ということですわ」

「あっ……」


 実際に、彼の音楽が聴けることを、僕はずっと楽しみにしていた。

 帰って来てからも、まだゆっくりと彼の音楽を聴く機会は得られていない。

 それはそう、この戦いが終わってからのお楽しみの一つだ。


「アミール様の演奏。楽しみにしていますわ。ですから、今は……」

「だったら、なおさらだ」


 さっきとは逆に、ポンポンと僕の頭を軽く叩いたアミールは、真剣な顔つきで僕へと視線を向ける。


「聴かせる相手がいなくちゃ、俺が生きてる意味もない。それに、聴かせるだけじゃない。俺は、お前と一緒に何かを作りたいんだ。だから、最後まで、お前の傍にいさせてくれ」


 一蓮托生。

 直接戦うわけではない彼だが、気持ちの面では、僕らとなんら変わりはない。

 だったら。


「アシュレイを任せましたわ」

「……ああ」


 差しだした手を、彼は力強く握ってくれた。

 そして、その時だった。

 敵襲を告げる鐘の音が、学園内に響き渡る。


「来たか」


 レオンハルトの呟きに応えるように、全員が頷く。


「それぞれ配置について下さい。セレーネ様もご準備を」

「わかりましたわ」


 錫杖を握り直した僕は、南の空へと視線を向ける。

 青い空のキャンバスには、まだほんの小さくはあるが、漆黒の点が描かれていたのだった。

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