318.お兄ちゃん、出会いに感謝する
あれは、学園に入学して間もない頃だった。
破滅エンドを回避するために奔走していた僕は、ルーナと攻略対象達を引き合わせるために、お茶会を企画した。
自分がホストになり、おいしいお茶や前世のお菓子なんかを用意して、なんとかルーナの覚えを良くしようとしていたのだ。
今になって思えば、あの頃の僕は、まだまだみんなの事をゲームの1キャラクターとして認識していたのだろう。
フラグを管理することばかり気にして、相手の心にきちんと目を向けられていなかったのかもしれない。
でも、今は違う。
僕はもう、ゲームでは知りえなかったであろう、彼らの素の姿を知っている。
紅の国の王子レオンハルトは、本当にストイックで、自分の理想のためならば、どんな努力も惜しまない人物だ。
確固たる信念を持ち、真っすぐに進むその姿は、僕にとって、いつも眩しいくらいに輝いている。
頼りがいがあるだけじゃなく、時折歳相当に恥ずかしがっている姿を見せてくれるのが、なんだかとても可愛らしい。
碧の国の王子エリアスは、碧の国の叡智と呼ばれるほどの知性を持ち、常に冷静で落ち着いた人物だ。
理知的な瞳の奥には、動物達に対する深い愛情があり、愛猫のシャムシールと並んで歩くその姿はとても絵になる。
そして、何よりどんな遠大な目標でも、一歩一歩突き進んでいく、強い心を持っている。
幼い頃からもっとも変化したのは間違いなくエリアスだろう。
砂漠の王子アミールは、楽器の演奏や演技など、芸事に精通した多才な人物だ。
人をまとめるのが上手で、自分の夢に向かって、仲間を集めて突き進んでいける少年漫画の主人公のようなところがある。
一見粗雑だったり、軟派だったりするように見えるけど、誰よりも人の事をよく見ている。
落ち込んでいる時に、声をかけてくれる、彼の穏やかな声が僕は大好きだ。
僕の弟であり、時期ファンネル公爵であるフィンは、人のために力を尽くせる優しい人物だ。
家族の幸せのために全力を尽くし、父の理想の人物を目指しながらも、自分の趣味にも正直に向き合えるバランス感覚のある人。
小さい頃からずっと一緒だったからこそ、彼の優しさに、僕は何度も救われた。
女装をしている時の姿も、どうしようもなく愛おしい。
白の教会の神官であるルカード様は、穏やかで、誠実な人物だ。
どんな些細な事でも真摯に向き合い、真剣に相談に乗ってくれるその姿は、包容力の塊と言っても過言じゃない。
頑張りすぎてしまうのが玉に瑕だけど、心の中では母親からの愛情を求めているようなところが、ちょっと可愛らしい。
どんなに年老いても、彼となら幸せに過ごしている姿が想像できる、そんな人だ。
この学園で過ごす中で、僕は彼らの表面だけではわかり得ない素敵な部分をたくさん知ることができた。
好感度なんてパラメーターがあるならば、僕方向から彼らへのそれは、きっともう振り切れてしまっていることだろう。
しばらく離れていたからか、今はなんだか素直にそんな風に感じている自分がいた。
彼らと過ごす最後の晩餐……にはもちろんしたくないのだが、それでも大切な今という時間に、僕は感慨も一入だった。
「おいおい、なんだよ。年寄り臭い表情して」
陽光の下、お茶会に興じるみんなの様子を穏やかな気持ちで眺めていると、やってきたのはアミールだった。
「年寄り臭いって……せめて、もう少し他の言い方がありませんこと?」
「隠居してるっぽい」
「ほとんど変わっていませんわよ」
2カ月ぶりとあっては、彼とのこの不毛なやり取りも、なんだか妙に心地よい。
と、アミールが僕に接触したのを見て取って、レオンハルトがそそくさとやってきた。
「砂漠の。礼節はわきまえているな」
「今回ばかりは、さすがに俺も自重するぜ。こいつとのあれやこれやは、全部が終わってからだ」
「これやこれやって……」
そりゃ、全員からすでに告白されている中で、2カ月以上返事を待たせてしまっているのだ。
さすがに僕だって考えたりもするけれど、アミールが言うように、黒との決着をつけるまではじっくりとそちらに心を傾けることはできなさそうだ。
「いつもの顔ぶれがそろっていますね」
そう言いつつ、シャムシールを連れ添ってやってきたのはエリアスだった。
「セレーネ様、ご機嫌麗しゅう」
「エリアス様も、ご機嫌麗しゅう」
きちんとまずは挨拶から入るエリアスに僕も久方ぶりの貴族風の礼で返す。
「ささやかなお茶会だと聞いていたのですが……」
周囲を見回すエリアスは、少しだけ苦笑い。
彼がそういう表情をするのも当然で、できるだけ小規模で開催する予定だったお茶会は、ほとんど学園全体を挙げての大宴会になってしまっていた。
学園祭と言っても過言ではないくらい多くの学生達が集い、軽食や飲み物を片手に談笑している。
どうやら、僕達がお茶会を開くという話がどこからか漏れて、皆集まってきてしまったようだ。
学園を退去する前に、最後の思い出を作っておきたいという気持ちは、やはりみんな同じようだった。
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