316.お兄ちゃん、現状を知る
「さて皆様、お揃いいただいたところで、早速ですが、現状の確認をしたいと思います」
話し合いを進めるべく、その場で立ち上がったエリアス。
机に囲まれた中央には、大陸の地図を広がっている。
「先の決戦から10日。黒の大樹が崩壊したことにより、黒の領域の範囲は、以前のおよそ三分の一ほどまで縮小しています」
「そんなに小さくなっているのか……!?」
「喜ばしいことではないか」
地図上に赤い線で描かれた現在の黒の領域は、確かに以前よりもかなり狭くなっている。
その事に、喜色を浮かべる騎士団の面々や神官たち。
「ふふっ、これは紅と碧で、土地の分配を考えねばなりませんな」
「そんなことを言っている場合ではありません」
叱責するようなエリアスの言葉に、発言者はビクリと姿勢を正す。
「黒の領域は今も縮小を続けています。ですが、それは決して黒が消え去るということではない。力が圧縮されている、と考えるべきです」
「エリアス王子の言うとおりだ」
立ち上がったのはレオンハルト。
「脱出の瞬間、黒の領域を覆う全ての瘴気は、一人の男へと集約されつつあった」
「黒の使者メランという輩ですかな?」
「ああ。あの男はドラゴンと同化し、かき集めるかの如く周囲の黒の魔力を吸収していた」
「ですが、それにしては、あまりに速度が遅いような……」
「それは!!」
気づけば、声を上げ、僕は立ち上がっていた。
全員の視線が、僕へと集まる。
一度、ゴクリと唾を飲み込んだ僕は、机の下で拳を握りつつも口を開く。
「おそらくコリックのおかげですわ」
「コリック……あのフェリックス王子の事ですか」
「はい」
黒の使者コリックが、実は元碧の国の王子フェリックス・ウィスタリアであり、二重スパイとして、こちらに手を貸してくれていたという事実はすでに全員に共有されている。
「彼は私達を黒の領域から脱出させるために、力を尽くしてくれました」
「うん。あの人には、とても助けられた」
「そして、これは私の予想になりますが……」
「聞かせてくれ。セレーネ」
レオンハルト、エリアス、それぞれに目くばせをされた僕は、コクリと頷く。
「彼はおそらく、私達を転移させた後、自らドラゴンと同化したのではないかと思うのです」
「ドラゴン……つまりメランと同化したと?」
「そうです。あの時、メランは黒の全てをその身に取り込むかのようでした。あるいは、フェリックス王子もそれに巻き込まれた可能性があります」
「なるほど。周りの瘴気と共に吸収された彼が、自らの意思で、メランが黒の力をかき集めるのを妨害していると」
「ええ。彼はきっと、私達が完全となったメランに対抗するための時間を稼ごうとしてくれているのです」
「そこまでの漢か。フェリックス殿下……」
全員が、思わず一瞬口を閉じる。
フェリックス王子の覚悟。
僕達は、それを決して無駄にしてはいけない。
「問題はメランのその後の行動だ」
「それは明らかでしょう」
全員の視線が今度は、アシュレイへと移る。
「黒の王の依り代。このアシュレイを奪うために、メランはやってくるはずだ」
「アシュレイの肉体は、生まれてからずっと私と過ごすことで、黒の存在でありながら、白の魔力への耐性を身に付けています」
事実、最も白の魔力が濃い、このアルビオンにおいても、彼はまったく問題なく活動できている。
「メランが仮にかつての黒の王の悪意をアシュレイに植え付けたとすれば、白の魔力では対処しえない、完全な黒の王が誕生してしまう」
「今回の戦いも、聖女様の御力があってこそ、ここまで善戦することができた。仮にそれがまったく用を為さなくなるとすれば……」
「歴史が証明している。紅も碧も、白の力がなければ、黒に勝つことはできなかった」
重苦しい空気が、場を包み込む。
もし、メランが取り込んだ全ての黒の力がアシュレイに宿り、彼が悪意のままに動く究極の黒の王になってしまったとすれば、誰もそんな彼を滅ぼすことはできないだろう。
今回の戦いにしても、ルーナの白の根源があるからこそ、あのドラゴンにもなんとか対抗しうることができた。
しかし、白の魔力がまったく効かないとなれば、もはや黒を滅ぼすことは不可能。
重々しい沈黙の中、レオンハルトが口を開く。
「対処法は簡単だ。メランと接触する前に、この男を殺してしまえばいい」
「えっ……」
僕の脳裏にも、その考えは確かにあった。
だが、あえて考えないようにしていたこと。
アシュレイという存在を消せば、メランはもう力を託す先がない。
そうなれば、強い力に耐えかねた彼は、やがて自壊してしまうだろうことは目に見えている。
黒は滅び、大陸には平和が訪れる。
多くの人々にとって、それは紛れもないハッピーエンドだろう。
だけど……。
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