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313/344

313.お兄ちゃん、正体を知る

 ドラゴンの眼前。

 戦いの余波で拓かれた大地の上に、一人の男が立っていた。

 色が抜け落ちたかのような白髪に、漆黒の燕尾服を纏った長身の男。

 そう、僕らを逃がす手助けをしてくれたコリックだ。

 黒の王城で別れを告げたはずの彼と、この戦いの場で、僕らは再会を果たしていた。


「コリック……!!」

「俺はもう、黒の使者コリックではない」


 淡々とそう告げるコリックに向かい、メランは憎々し気に鼻を鳴らす。


「そうだったな……。碧の国の王子、フェリックス・ウィスタリア」

「えっ……」


 メランの口から出たとんでもない名前に、思わず声が漏れた。

 フェリックス・ウィスタリア。

 碧の国に昔から住んでいる者ならば、その名を知らぬ者はいない。

 王位継承の最有力候補であった若く優秀な王子。

 だが、彼は6年前、他国から帰還する折に、海に落ちて行方不明となっていた。

 それが、まさか黒の使者として、メランに利用されていたとは……。


「どうやら完全に記憶を取り戻したようだね」

「ああ、お前達に海の藻屑とされかけた時の事も鮮明にな」

「君が密かに黒の国を攻め落とそうなんて計画していたからだよ。危険分子は、早々に排除しておかないとね。もっとも、優秀な君を傀儡として利用したい気持ちもあったけど」

「だが、それが裏目に出たようだ」


 周囲の状況に目を向けるように首を振るコリック。


「魔物は全て戦場にいて、助けには来られない。自身はすでに剣は折れ、ボロボロの状態だ。黒竜もまたしかり」

「はっ、お前も知っているだろう。俺達には、まだ黒の大樹が──」


 その時だった。

 メランが遥か彼方を見ながら、目を見開いた。


「ま、まさか……」

「どうやら、戦いに集中して、俺が何をしていたか把握できていなかったようだな」


 コリックの言葉と共に、遥か彼方から轟音が響き渡った。

 何事かと振り向いた僕らは、そのあまりに壮大な光景に絶句した。


「黒の大樹が……」


 先ほどまで、天を衝くばかりに聳え立っていた黒の大樹。

 その黒々とした葉が、徐々にしなび、枯れ落ちていく。 

 さらには、巨木の枝が折れ、次々と大地へと落下し始めていた。

 その光景は、まさに"崩壊"という言葉がふさわしい。


「貴様……!!!」

「お前が作った新しい腕輪、使わせてもらったぞ」


 新しい腕輪?

 その言葉に、僕はハッとする。

 白を脱出する際に、僕の腕から外した魔力を吸収する腕輪。

 1カ月ほど僕の白の魔力を溜め続けたその腕輪を使って、彼は何かをしたらしい。


「核の近くで、腕輪の白の魔力を解放させた。直に黒の大樹は完全に崩壊する」

「貴様……貴様ぁあああ!!!!」


 メランの身体から再び瘴気が噴き出す。


「ノワール様が!! ノワール様が消えてしまう!!」

「あの大樹には、元々黒の王の本当の意志など宿ってはいない。遺っていたのは、ただ、陰鬱な暗い感情だけだ。それは黒の王のただの一面に過ぎない」

「違う!! ノワール様は、確かにあそこに……!!」

「メラン。もう終わりにしよう」


 どこか優しい口調で、コリックはそう告げる。


「お前は過去に縛られているだけだ。他人の"恨み"まで背負いこんで、ひたすらに自分を追い詰めている」

「そうだとも!! この"恨み"は黒の民全てのもの!! そして、黒の王であるノワール様のものだ!! 俺は託されたんだ!!」

「本当にそうか? 黒の民は、決して滅んだわけじゃない。国にこそいられなくなったが、当時の民達の子孫は、今も紅や碧の国で平和に暮らしている。黒の王とて同じだ。彼はきっと、納得づくで……」

「うるさい!! 勝手に、お前達の都合の良い現実で塗り替えるな!! 俺は……俺は……こんなところで終わるわけにはいかない!!」


 激昂するメラン。

 すると、周囲の瘴気が彼とドラゴンの元へと集まってきた。


「こ、これは……!?」

「黒の大樹が崩壊し始めた事で、残った瘴気がメラン達のところに集まっているのか……?」


 メランの意志か、そうでないかは定かではない。

 だが、事実として、尋常ではない瘴気が、今メランとドラゴンを包み込もうとしていた。


「ははっ!! いいよ!! 受け入れてあげるよ!! さあ!!」


 狂ったように笑うメランの黒衣が、ドラゴンの漆黒の身体へと沈み込んでいく。

 黒竜と一体化したメランは、周囲の瘴気をその肉体へと取り込み始めた。

 だが、これは彼自身が魔物達に行っていたことと同じだ。

 過剰な瘴気は、その身を滅ぼす。

 黒の領域中に残された瘴気が、全て集まってくるとすれば、彼が耐えられるはずもない。


「やめて、メラン!! このままじゃ……!!」


 自滅する。

 そう叫ぼうとするものの、もう彼の耳には誰の言葉も届いてはいなかった。

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