312.お兄ちゃん、聖剣の力を見る
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
痛みのあまり、地団太を踏むドラゴンの様子を見ながら、僕はごくりと唾を飲み込む。
強大なドラゴンの戦闘力の前に、為す術無しかと思っていたが、ところがどうして、仲間達はそのドラゴンすら圧倒していた。
おそらくドラゴンとの戦闘を想定して、連携の訓練をしていたのだろう。
魔法でじわじわとダメージを与えつつ、ドラゴンの注意を逸らせるフィン。
ドラゴンの攻撃から、防御魔法で仲間達をガードするルカード様。
そして、隙を見つつ、ドラゴンの急所への一撃を狙うアニエス。
3人の連携は見事なもので、絶妙なタイミングで攪乱・防御・攻撃を繰り返しながら、じわじわとドラゴンにダメージを蓄積させていた。
いや、凄いのは3人だけではない。
実際の戦闘行為を行う3人の後ろに控えるのは、ルーナだ。
彼女は両手を結び、祈るようなポーズで瞳を閉じている。
そんな彼女の身体からは、強力な白の魔力が周囲へと絶えず拡散されていた。
そのあふれ出す白の魔力により、仲間達は自由に魔力を扱えるし、その上、ドラゴンそのものも弱体化させられている。
「ルーナちゃん、いつの間に……」
2か月前、僕が囚われる直前のルーナは、まだ自身の白の魔力すら感じ取れることができないほどだった。
そのせいで、最後の"魔"の試験では、僕と大きな差が出てしまっていたのだが、今のルーナの魔力は少なくとも僕と同等かそれ以上。
この短期間でいったい彼女に何があったのかはわからない。
だが、ルーナの強力な白の魔力のおかげで、ドラゴンとの戦闘が有利に進んでいるのは間違いがなかった。
「ちっ、何をやっているんだ……」
レオンハルトと互角の戦いを繰り広げているメランが苦々しそうに顔を歪める。
大方僕の仲間達程度、すぐに倒せる気でいたのだろうが、一向にドラゴンが助けに来ないことで痺れを切らしたらしい。
「もういい!! こんな奴、俺一人で!!」
メランの身体から、これまで以上の瘴気があふれ出す。
どうやら、ドラゴンの助けなしで、一人でレオンハルトを倒すつもりのようだ。
それまでのにやけ顔もどこへやら、怒りの形相をした彼は、脇差のような短剣を逆手に持ち替えた。
すると、刀身をまるでコーティングするかのように、黒の魔力が覆っていく。
「俺の本気の一撃をくれてやる。魔力を扱えない君じゃ、これには対抗できないぞ」
「そうかな? やってみろ」
挑発するようなレオンハルトの言葉に、唇を歪ませたメランは、残像さえ残すようなスピードでレオンハルトへと疾走した。
圧縮された黒の魔力が、周囲の空間すらゆがめるように、波打つ線となって流れて行く。
あんなメランは初めて見た。
これは、本当に彼の本気の一撃だ。
あんなエネルギーの塊のような攻撃をぶつけられたら、レオンハルトの剣の方が折れてしまう。
心配するばかり僕だったが、レオンハルトは冷静なまま大上段へと剣を構えた。
そうして、気迫を籠めるようにその名を呼ぶ。
「咆えろ!! レーヴァテイン!!」
獅子の咆哮が聞こえた気がした。
いや、そう感じるほどに猛々しい力が、レオンハルトの持つ聖剣から発せられた。
具体的にはそう、"炎"だ。
紅の国そのものを象徴するかのような紅蓮の炎が、まるで刀身からあふれ出すように剣を覆っていく。
「なんだと!?」
「これが、聖剣レーヴァテインの真の姿!! はぁあああああっ!!」
「くっ!? らぁあああああっ!!!」
直後、黒と紅の剣がぶつかり合った。
凄まじいエネルギーの衝突に、周囲の木々が折れんばかりにしなっている。
熱風が周囲を吹き荒れ、僕は思わず腕で顔を守った。
どれくらいそうしていただろうか。
やがて、視界を確保した僕は、その状況に「あっ」と声を漏らした。
揺らめくようにわずかに燃える火の中で、レオンハルトが立っている。
そして、その切っ先は、ピタリとメランの首筋へと吸い付いていた。
「俺の勝ちだ」
淡々とそう告げるレオンハルト。
聖剣レーヴァテインの力を解放した彼は、ついに宿敵であったメランを打ち倒したのだ。
「嘘……だろ……」
未だ信じられないように呆然とした表情で呟くメラン。
彼の握る剣にすでに刀身は無く、半ばからまるで溶け落ちたかのように折れてしまっていた。
その剣とレオンハルトの顔の間で視線を彷徨わせながら、彼は狂ったように笑い出す。
「ははっ、ははははっ!! まるで勇者じゃないか!! また……また、俺達は……!!!」
怒りに震える手で、地面を掴んだメラン。
キッとレオンハルトを睨みつけたかと思うと、彼は手に握った砂を目つぶしのように投げた。
姑息な手段で、その場を逃れたメランは、フィンたちに徐々に追い詰められていたドラゴンの背へと飛び乗る。
「こんな……こんな奴らに……。こうなったら、黒竜にさらに瘴気を──」
「もう止めろ、メラン」
この2カ月で、聞き馴染んだ声が、その場に響いた。
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