311.お兄ちゃん、仲間の強さに驚く
「ようやく見つけたよ。黒の王」
ドラゴンの背に乗ったメランが、こちらを見下ろしている。
普段は飄々とした雰囲気の彼だが、今は明らかにイラついている表情をしていた。
無理もない。
コリックの目を通して、こちらの状況を知ることのできるメランは、すでに彼が自分を裏切った事を知っている。
その上、計画のために育て上げた黒の王の依り代までも、逃がしてしまうところだったのだから。
「さあ、黒の王城へ帰ろう。君の家はあそこだろう?」
パッと切り替えるように笑顔を浮かべたメランは、アシュレイを誘うように手を伸ばす。
だが、アシュレイは、すぐさま首を横に振った。
「メランおじさん。悪いけど、僕はもうあそこには帰らない」
「うーん、困ったなぁ。どうしてもかい?」
パフォーマンスのように頭を掻く仕草をしたメランに、アシュレイは力強く首肯をして応えた。
「はぁ、そりゃあ、あいつから"自分の運命"について聞かされてれば当然か。まあ、でも」
ジャックオランタンのように口角を上げ、彼はニヤリと微笑む。
「力づくで、連れて帰ればいいだけのことだけど」
「そう簡単にできると思うなよ」
ぶんっ、と剣で宙を薙いだレオンハルトが、メランを睨みつける。
「あら、紅の王子様じゃないか。いたのかい?」
「この男に義理はない。だが、セレーネが望むのなら、俺が諸共守り抜く」
「相変わらずの熱血漢だねぇ。まあ、君とも3度目の正直だしね。そろそろ決着をつけてあげることにするよ」
瞬間、メランがドラゴンの背を蹴る。
そして、黒い雷の如き一閃が、レオンハルトへと直撃した。
だが……。
「あら、結構本気だったんだけど」
「剣戦の時の俺と同じだと思うなよ」
完璧にその一太刀を受け止めたレオンハルトは、今度は自身が攻撃へと転ずる。
一般人では目で追うのがやっとのスピード。
お互いに剣を打ちつけ合う、甲高い金属音だけが、木々の間に響き渡っていく。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
と、そんなレオンハルトとメランの一対一の対決の傍らで、ドラゴンが咆哮した。
ある程度知能があるのか、どうやらメランの指示がなくても、彼をサポートしようとしているようだ。
だが、そんなドラゴンへと、巨大な氷塊が直撃した。
羽の付け根辺りに氷塊を叩きつけられた痛みで、再び咆哮するドラゴン。
完全に意識がこちらへと向いたその視線の先には、魔法を放った体勢のままのフィンがいた。
「レオンハルト様の戦いに水は差させない」
そう言いながら、次々と今度は先ほどよりも小さいが、より鋭い先端をした氷塊を作り出すフィン。
一斉に投擲されたそれらが、次々とドラゴンへと命中する。
知力ではエリアスに一歩届かないフィンだが、単純な魔法の腕前に関しては、学園でも並ぶ者はいない。
弾幕のようにばらまかれたフィンの攻撃魔法に、さしものドラゴンもじわじわとダメージを受けているようだった。
しかし、さすがにそれだけで倒せるほど甘くはない。
圧倒的な耐久力を発揮して、強引に翼を振ると、その場に黒い竜巻が吹き荒れた。
たまらず地面へと身を伏せる僕達。
黒い瘴気が攻撃的な嵐となって、木々を折らんばかりに大地を蹂躙する。
人間等、簡単に吹き飛んでしまいそうな勢いだが、すぐに、その勢いが収まった。
「皆様には指一本触れさせません」
ルカード様だ。
得意とする防御魔法を展開したルカード様は、フィンはもちろん、近くの仲間達を見事に守り切ってみせた。
「このタイミングですね」
と、嵐が過ぎ去った瞬間を狙って、弾丸のようにドラゴンへと跳躍した者がいた。
僕のメイド騎士、アニエス・シェールだ。
鼠径部に巻きつけていた蛇腹剣を解くと、そのまま剣を連結させ、ドラゴンの足元へと突き立てる。
3本ある指のうち真ん中の1本の根元へとアニエスの剣が深々と突き刺さると、ドラゴンが横転し、痛みに悶えるように喉を鳴らした。
「これだけの巨体です。大技を放った直後に、足元を狙えば、崩せる。エリアス様の読み通りですね」
シュタリと僕の近くへと着地したアニエスは、余裕の笑みを見せたのだった。
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