301.碧の王子、指揮を執る
「壮観ですね」
いよいよ進軍を開始した我が軍。
10万の兵のうち、大多数が同じ装備をしたいわゆる重装歩兵だ。
右手には槍を持ち、左手には円形の大きな盾を構えている。
横一列に並ぶと、隣の者が持っている盾が、ちょうど自身の身体を守ってくれる形となり、非常に防御力が高い陣形を作ることができる。
単純な前進戦法しか行わないため、練度の低い民兵でも容易く習得できるこの布陣は、今回の作戦に当たって、最も適していると言えた。
もっとも、この布陣を組むためには、魔物の攻撃にも揺るがない、頑強な盾が必要不可欠。
そのために用意したのが、碧の国原産の碧石を使った盾だった。
ジ・オルレーンの大橋梁でも使われているこの石は、非常に軽く、頑丈であるのが特徴である。
加工に時間がかかる碧石をこれだけふんだんに使った装備類。
もちろんたった2カ月のうちに作り上げたわけではなく、その準備は、5年以上前からすでにファンネル領内で行われていた。
「先見の明とはまさにこの事。本当に恐れ入ります」
侵略計画の立案だけではなく、実際に準備も行っていた彼に敬意を示す。
そうしていると、ついに平原を超えた先の大森林から大きな唸り声が聞こえた。
同時に、土埃を上げながら、魔物の大群が姿を表す。
さすがに黒の領域の魔物達。
幼い頃に僕らを襲ったあの鳥型の魔物とは比較にならないほどに強力そうなものばかりだ。
動物を模したものや人間と同じく二足歩行をしているもの、空を飛ぶ虫や鳥のようなものまで、いくつもの種類の魔物達が、兵士たちの命を刈り取ろうとその爪を光らせる。
だが……。
「第一射。撃て」
「了解!! 第一射ぁ。てぇー!!」
伝令が飛ぶと同時に、歩兵部隊の背後に潜んでいた碧の国の魔法騎士団が一斉に魔法を放つ。
魔法騎士団は、得意な属性ごとに中隊規模でまとまっている。
ある場所では嵐が吹き荒れ、ある場所では洪水が起こり、ある場所では地面が隆起する。
数十人が同時に放った同属性魔法は、歩兵たちを蹂躙しようとしていた魔物達の出鼻をくじくように炸裂した。
あちらこちらで閃光が飛び交い、魔物達が瘴気へと還っていく。
歩兵はあくまでも盾。攻撃は魔法騎士団による一斉攻撃、あるいは……。
「紅の騎士団、前へ」
「了解!! 紅の騎士団、吶喊!!」
身体能力を魔力によって強化した紅の騎士団が、歩兵を飛び越えるようにして、一気に戦場の真ん中へと躍り出る。
そして、一騎当千の力を持つ騎士達の集団は、歩兵の盾に阻まれた魔物達を横合いから次々と斬り伏せて行った。
同時に、魔法騎士団の放った炎が森林の入口へと火を点けた。
次々と燃え広がっていく炎。
そこから逃げるように、大量の魔物達が森から吐き出されるが、それらも魔法騎士団の大規模魔法により、灰燼に帰す。
もはや蹂躙と言っても良いほどに、一方的な戦況。
歩兵という盾と騎士団という鉾の二つを用いたこの戦術は、対魔物において圧倒的なアドバンテージを有していた。
「図に当たったとはまさにこのことでしょうか」
こんな無茶苦茶な戦術と取ることができたのには、理由がある。
視線を後方へと向けると、そこにあるのは土魔法で作られたドームのような形状のシェルターだ。
そして、その中では、聖女様が白の魔力を発動させていた。
黒の領域の中でも、白の魔力であれば、瘴気を跳ねのけることができる。
その上、騎士達にも、魔力を使った攻撃を可能とさせていた。
「白の魔力の効果はやはり絶大ですね。とはいえ、あまりご負担をかけるわけにはいきませんが」
そんな僕の想いも空しく、ひときわ大きなうなり声が上がると、炎の中から、さらに大量の魔物達が現れた。
どうやら予想した通り、黒の領域中の魔物達が、この場所へと集められているようだ。
その物量は、10万の兵達と比較しても、決して見劣りしないだろう。
そして、個体個体の戦闘力で言えば、明らかにあちらの方が上。
「長期戦になれば、こちらが不利なのは明白。でも……」
それでいい。
セレーネ様の救出という視点で見れば、この10万の兵は、大規模な陽動に過ぎない。
こちらに戦力を割けば割くほど、時間をかければかけるほど、レオンハルト様達がセレーネ様を助けるチャンスは大きくなる。
「根比べと行きましょうか。魔物さん達」
戦況を俯瞰しつつも、僕は心を落ち着けるように、傍らに佇むシャムシールの背を撫でたのだった。
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