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030.お兄ちゃん、社交界デビューの準備をする

 さて、あの海での休養から1週間ほどが過ぎた。

 近頃は、魔法の修行にも、少しずつだけど、進展が見られるようになった。

 やはり、たまの息抜きというのは必要なものらしい。

 というのも、魔法を使う時のコツを見つけたのだ。


「でも、まさか……こんな」


 それは、声……いや、歌だった。

 歌を歌いながら魔力を操作しようとすると、なぜか上手くいくことが多いのだ。

 それだけじゃない。

 実は以前から、僕は自分の声に、なんとも言えない既視感(既聴感?)を感じていた。

 確信したのは、あのハンスとの出会いだ。

 彼の前で初めて歌を歌ったあの時、僕は気づいた。

 この声は、前世で聞き馴染んだ、とある人物の声だと。


「僕の声って、レミリアたんの声じゃないか……」


 そう、それは、アークヴォルトオンラインのナビゲートキャラクター、美少女妖精レミリアたんの声に他ならない。

 いや、もっと正確に言うと、レミリアたんの声を担当する人気声優、高橋恵理さんの声だ。

 彼女は歌って踊るアイドル声優だった。

 つまり、今の僕は、CV高橋恵理ってなもんで。


「まさか、セレーネとレミリアたんの声が同じとは……」


 美少女キャラばかりかと思っていたら、ちゃっかり乙女ゲームのヒロインの声も当てていたとは恐れ入る。

 こうやって独り言を言ってる声も、改めて聞いてみると、レミリアたんに随分似ている。

 年齢の事もあってか、多少まだ声に幼さを感じるが、同じ声帯から出ている声なのはおそらくそうだろう。

 試しに若干だけ低めに声を作ってみると、まごうことなくレミリアたんの声が出た。


「うぉおおおお、僕、レミリアたんじゃん!!」


 自分の口からレミリアたんの声が出ていることに、今更ながら、感動に打ち震える。

 そりゃ、良い声って言われるわけだよ。

 だって、人気声優さんの声なんだから。

 それが発覚してから、僕は夜通しレミリアたんっぽい声で台詞を言ってみたり、歌を歌ったりしてみていた。

 あー、最高。

 自分の口から推しの声がするとか……。

 忘れかけていたオタク心が蘇ってくる思いだ。

 いや、ほんとなんで今まで気づかなかったんだろう。


「もう! おたんこなす!!」

「え、姉様……?」


 レミリアたんの名台詞を言っていたら、ちょうどフィンが通りかかった。

 あー、いかんいかん。台詞を言うのは、自分の部屋だけにしないと……。


「ごめん、フィン。何でもないの」

「そ、そうですか……?」


 キョトンとしているフィン。

 おたんこなす、の意味は伝わらなかったようで良かった良かった。


「あの、姉様。お父様から僕も姉様と同じ日に、社交界デビューをするように言い渡されました」

「まあ、一緒に社交界に行けるのね!」


 正直1人では不安だったので、フィンと一緒に行けるなら、願ってもないことだ。

 考えてみれば、立場上は義弟だけど、年齢的には僕と同い年だしね。

 この大陸では、12歳の誕生日を迎えれば、便宜上は大人の仲間入りとみなされるし、貴族ならば社交界へのデビューが義務付けられている。

 もっとも、形式上はそうなだけで、実際のところ12歳なんてまだまだ子どもだ。

 そして、多くの貴族の子どもは14歳からの4年間を学園で過ごす。

 その間は、社交界へはあまり積極的に参加する機会がなくなるため、本格的に参加し始めるのは18歳になることが多い。

 つまるところ、今回の社交界デビューは、プレ的な意味合いが強く、半ば、お茶会とでもいったものなのだが、さすがに公爵家ともなると、その子息は大々的に紹介されることになるだろうし、気を抜けるわけじゃない。

 フィンは初めてファンネル家の後継ぎとして紹介されることになるわけだし、僕以上に緊張していることだろう。


「フィン、一緒に楽しみましょうね」

「は、はい、姉様」


 若干強張った顔をほぐすようにそう声をかけると、フィンは少しだけホッと胸を撫で下ろしたようだった。

 そんなわけで、社交界デビューが近づいてきたこともあり、家庭教師と過ごす時間も必然増えてきた。

 その上、自分から申し出た剣や魔法の訓練までしているのだから、目の回るような忙しさになってきている。

 自分よりも頑張っているフィンという義弟がいなければ、きっと途中で挫折していただろう。


「1,2,3! 1,2,3! フィン様、遅れています」

「は、はい!!」


 僕と手を繋ぎ、必死にダンスについてくるフィンを見ていると、自然と僕も姉として、頑張らなければならないと意識が強くなった。

 けど、改めて見ると、やっぱりフィンってイケメンだよなぁ。

 父からの厳しい英才教育を受けるうちに、表情も凛々しくなってきたように思う。

 休養日は、逆に自分のやりたい女の子の格好をして伸び伸びとしているし、オンとオフがしっかりしているというか。

 ふと、ダンスに必死についてこようとしているフィンと目が合った。

 真剣な表情に、一瞬、胸がドキッとした。


「どうしました、姉様?」

「う、ううん、何でもないですわ!!」


 あー、やっぱり先日から少しおかしい気がする。

 これももしかして、この世界の強制力とでもいったものなのだろうか。

 義弟に少しでもドキドキするなんてあり得ない。

 フィンが、おそらく攻略対象だからそうなってしまうのだろうか。

 本当に自分をしっかり保っておかないと、迂闊な言動や行動を取りかねないぞ……。

 自分を保てるように意識しておかないと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女は自分の心が徐々に女の子の心になっていることにもっと気づきます。
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