297.お兄ちゃん、歴史を知る
大陸に訪れた平穏は、そう長くは続かなかった。
紅と碧の対立は如何ともしがたく、戦火の中で犠牲になる民達は一向に減ることはなかった。
このままでは、いずれお互いに力尽きる。
それを感じていた当時の碧の国の王子エルカレウムは、長引く戦争を終わらせるために、和平交渉を紅の国へと持ち掛けた。
しかし、国と国との和平には、立ち合い人となる立場の第三国が必要不可欠。
必然、その立場となったのは白の国であった。
白の国を介した和平交渉は、表面上は上手く進んだが、それでもそれぞれの国の根底にある敵愾心はなかなか拭うことができなかった。
そんな最中、虐げられ、癒しを求める人々の救いとなったのが、聖女セフィーラだった。
聖女になる以前から、彼女は自らの力を振るって、人々の身体の傷を癒し、心を助ける活動を行っていた。
いつしか彼女の元には、多くの民達が押し寄せるようになり、やがて彼女を頂点とした白の教会が設立されるに至る。
そんな彼女の噂は他国へも広がり、見目の美しさもあって、縁談が持ち込まれることも日常茶飯事になっていった。
特に彼女へと強い想いを寄せたのは二人。
和平の立役者となり、時の人となった碧の国の王子エルカレウムと、ドラゴン討伐を為した事で名を上げた、紅の国の騎士レオンハルトだ。
二人はすぐさま、セフィーラの虜になった。
突出した容姿、包み込むような優しい性格、そして、人々を癒すその魔力と笑顔。
セフィーラをなんとしても自分のものにしたい二人は、恋敵としてお互いに争っていた。
それぞれに魅力的な男性であるエルカレウムとレオンハルト。
セフィ―ラもそんな二人の事を憎からず思っていたが、彼女の胸の奥には、ずっと一人の青年の姿があった。
黒の王ノワール。
どれだけ他の男性に言い寄られようとも、彼女の心を一番大きく占めていたのは、やはり彼の存在だったのだ。
だが、そんなセフィーラの想いとは裏腹に、二人が会える機会はなかなか訪れなかった。
二人が再び相まみえたのは、お互いが19歳になった秋の事だ。
白の仲立ちで、なんとか表面上は平和を保ち始めた紅と碧の国。
三国に加わる形でついに、黒の国もそれぞれの国との同盟を結ぶことになったのだ。
白の国で行われる調停式に出席することになったノワールは、これから訪れるであろう平穏な日々と久しぶりにセフィーラに会える喜びでいっぱいだった。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、彼の体調は芳しくなかった。
初めて感じるような全身の虚脱感は白の国に近づくほどに激しくなっていく。
それでも、人々の期待を背負った彼は、体調の悪化を周りに隠し、調停式へと参列したのだ。
悲劇はそこで起こった。
成長したセフィーラの白の魔力は、自分の想いとは裏腹に、黒の魔力を持つノワールを拒絶した。
調停式の最中、白の魔力への防衛本能を無意識的に働かせたノワールは、自身の黒の魔力を暴発させた。
それにより、セフィーラは怪我を負ってしまう。
調停式の場で、そのような暴挙を起こした黒の国は当然の如く糾弾され、同盟は破棄される運びとなった。
いや、それどころか他の三国から、明確に敵として認識されてしまうことになってしまったのだ。
「皮肉な事に、それが紅と碧、そして、白の結束を深めることになった」
黒の国という共通の敵が出来たことで、三国の結束は深まり、協調ムードが高まった。
平和を脅かす黒の国。そしてその首魁である魔王ノワール。
その構図は、当時の他の国にとって、非常に都合が良かった。
必然出来上がった三国同盟対黒の国という構図ではあったが、三国が簡単に黒に攻め込むことはできなかった。
なぜならば、黒の国にはアーテルの聖木がある。
再三、侵略行為を行ってきた紅と碧の国だからこそ、そこへ出兵することの難しさを理解していたのだ。
そこで、三国がとった手段は、大規模な出兵ではなく、少数精鋭で敵の首魁である黒の王を討ち取るというものだった。
名乗りを上げたのは、調停式にも参列していた二人。
碧の国の王子であり、同時に賢者の肩書をも有していた魔法の遣い手エルカレウム。
そして、紅の国の騎士であり、勇者との呼び声も高かったレオンハルト・カーネルだ。
彼らに加えて、白の国の聖女であるセフィーラもまた、そのパーティーへと参加することになる。
白の魔力を持つセフィーラが同行することで、黒の国の中でもパーティーの仲間は魔力を扱うことができる。
こうして組まれた黒の王討伐パーティーは破竹の勢いで、アーテルを突き進んだ。
勇者と賢者と聖女。彼らの他にも数名の協力者とともに、立ちはだかる黒の瘴気で強化された魔人達を次々と討伐していく勇者パーティー。
そして、彼らはついに黒の王が座する玉座へとたどり着いた。
結果は語るまでもない。
黒の王は討伐され、そして、三国は永遠の友好を手に入れた。
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