296.お兄ちゃん、黒の王の始まりを知る
世界で初めて、黒の魔力を持った少年ノワール。
黒の魔力は、紅の魔力と碧の魔力が持つ力を両方使うことができた。
その上、瘴気に触れさせることで動物を使役したり、あるいは他人の魔力の発動を阻害する力すらあった。
神から特別視されたとした思えないほどに、万能で強力な魔力。
だが、彼はその力を隠し続けた。
彼は聡明だった。
自分が力を持つ者だということがわかれば、迫害されるであろうことをわかっていたのだ。
13歳になるまで力を隠し続けた彼は、できうることならば、生涯それを使わずに生きていくつもりだった。
しかし、そんな彼に転機が起こる。
戦争である。
紅の国と碧の国。
二つの大国の戦争が少年にその力を振るう事を迫った。
魔力が使えないならば、数で勝負、と大群を率いて黒の国へと侵攻を開始したのは、当時の紅の国だった。
同じ魔力が使えないという条件ならば、剣を持って戦う者が多い紅の国の方が、碧の国の軍隊よりも黒を侵略するのに適していた。
先遣隊として送られたおよそ三千の兵士にさえ、為すすべなく蹂躙されていく黒の民達。
その光景を目の当たりにしたノワール少年は、ついに自身の力を振るうことを決めた。
瘴気を使って森中の動物達を強化・使役し、三千の兵の横っ腹に噛みつくようにして攻め込むノワール。
彼自身も黒の魔力を直接振るい、多くの兵を打ち倒した。
たった一人の少年の奮闘は、果たして三千の兵を退けるに至ったのだ。
自分の力を見られた事で、家族や国中の者達に、不気味がられると思っていた彼だったが、そうはならなかった。
彼の一騎当千の強さを目の当たりにした民達は、黒の国で唯一他国に抵抗できる力を持ったノワール少年を担ぎ上げたのだ。
こうして、ノワールは黒の国で初めて、他の民達の上に立つ存在。
"黒の王"となった。
「黒の王が、そのような経緯で誕生したなんて……」
「まあ、ノワール様自身は、その称号をあまり気に入ってなかったようだけどね」
その後も、たびたびやってくる紅や碧の侵略軍を、徹底的な知略と圧倒的な魔力で返り討ちにし続けるノワール。
いつしかアーテルには王城が築かれ、彼は半ば崇拝の対象となっていた。
黒の王がいる以上、黒の国を侵略することは容易ではない。
そう考えを改めた紅と碧の次の標的となったのは、白の国だった。
白の国はテーブルマウンテンの上に建国された国だ。
攻め込むことは容易ではないが、黒の国と比較すれば、抵抗できる戦力自体は大したことがない。
それに、高地にある白の国を自国領とできれば、他国への大きな牽制になる。
そう目論んだ紅と碧の国は、白の国への本格的な侵攻を開始しようとしていた。
いよいよ危機に瀕した白の国は、黒の国へと助けを求める。
紅と碧の国からの侵攻に対抗するために、同盟を組んで欲しいと、黒の国に懇願したのだ。
当時の白の国は弱小国だ。
同盟を組むことのメリットは無いに等しかったが、それでも、ノワールはそれを快く承諾した。
彼は、紅と碧の横暴に、心底憤っていたのだ。
こうして、同盟を組んだ白の国と黒の国。
黒の王の後ろ盾を得た白の国には、紅と碧の国も容易に攻め込むことができず、大陸には一時の凪が訪れた。
そんな折に、ノワールは出会った。
自分と同じ年、同じ日に生まれた少女。
白の魔力という特別な力を持って生まれ、白の国で聖女として崇められ始めた美しい女の子と。
彼女の名は"セフィーラ"。
後に白の根源と呼ばれる強力な白の魔力を発現することになる幼気な少女だった。
同じような立場にある二人は、すぐに意気投合した。
心優しい二人は、性格的にも相性が良かった。
だがしかし、お互いに奥手でもあった二人は、なかなか恋仲になることはなく、お互いに恋心を持ちながらもそれを伝えることはできなかった。
大陸の中でも、特に距離のある二つの国。
会える時間は限られていたが、かえって会えない時間にお互いへの想いは募っていった。
そして、その度に、セフィーラの聖女としての力も高まっていったのだ。
「初代聖女様の力が高まっていったのは、もしかして……」
「君と同じさ。恋のドキドキ。ノワール様への想いが、彼女の力を強くしていったのさ。だが、それが後々悲劇を生むことになる」
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