295.お兄ちゃん、再び黒の使者に問う
さて、開戦を明日に控えた夜の事だ。
先日同様アシュレイが寝落ちしたその後、僕は再び城内を闊歩していた。
探しているのは、メランだ。
城を出る前に、僕にはどうしても確認しておきたいことがあった。
それは、戦争の原因に当たる部分。
なぜ、黒がこんなにも他の国々を憎むのか、ということだ。
その答えは、メランしか持っていない。
純粋な黒の存在は、現在メランだけだ。
コリックはあくまでメランに引き入れられた存在であり、他の黒の使徒達も同様。
本当の意味で、かつてあった事実を知っているのは、おそらく今メランしかいない。
だから、直接問う。
あの時、コリックにそうするほかないと言われたように。
「あっ……」
見つけた場所は、いつも昼寝している通路の窓枠だった。
今日は、そこにワインやらスコーンやらを持ち込んで、一人晩酌をしていたようだ。
明日、開戦するとは思えないような姿に、さすがだなこの人、と妙なところで感心してしまう。
すると、そんな僕に彼も気づいた。
「まったく、せっかく夜風に吹かれて、寝晩酌してるっているのに」
「寝晩酌って……。行儀が悪すぎますわね」
半分窓枠に持たれながら、モグモグとスコーンを咀嚼している姿は、現状一応は敵の首魁であることを一ミリも感じさせない。
「いーんだよぉ。誰が見ているわけでもないしぃー」
「私が見ていますけど」
「聖女候補様はノーカン、ノーカン。人質だしねぇ~」
あー、あまりにも自由行動させられすぎて忘れかけていたが、僕ってば人質だった。
考えてみれば、僕を表に出して、人質作戦とかもできるわけだよな。
今のところ、そういうそぶりはないけど、もし黒側がピンチになるようなことがあればやりかねない。
「ぐびぐび、ぷはぁ……。やっぱ百年物の碧産ワインは最高だね」
そんな貴重なワインを、直接ラッパ飲みする奴があるか。
「そんな年代物……。いったいおいくらしましたの……?」
「金なんて払ってないさぁー」
やはりそうか……。
「人の物を盗んではいけない。そう習いませんでしたか?」
「盗んでなんかいないよ。俺は取り戻してるだけぇ」
「取り戻す?」
「そうそう。このワインも食べ物も、価値あるものは全て、元々は黒が持っていたものさ」
妙に饒舌なのは、少し酔っているからだろうか。
再びラッパ飲みして、息を吐いたメランは、ふん、と鼻を鳴らした。
「黒の国が滅んでいなければ、これを作っていたのは黒の民だった。俺が奪ったんじゃない。あいつらこそ、俺達の未来を奪い取ったんだ」
「メラン……」
どこか子どもが拗ねるように、そう語るメラン。
「教えて下さいませんか。あなたがどのような存在で、なぜ、そんなにも他の国を恨むのか」
「公爵令嬢に聖女候補。持て囃されるだけの人生を送ってきた君には、到底理解できない話だと思うけどぉ?」
この期に及んで、嫌味ったらしくそう言うメラン。
だが、今日は彼のそんな卑屈さが、無理をしているように感じられた。
しばらく無言でその場に立っていると、彼は根負けしたように息を吐いた。
「はぁ、わかったよぉ。まあ、戦の前にあいつらへの恨みを思い出すのも悪くない」
そう前置きすると、彼は語り始めた。
昔々、今から200年以上も昔のとある少年の物語を。
その昔、この大陸には4つの国があった。
紅の国カーネルの前身であるバーミリオン王国。
碧の国ウィスタリア。
そして、出来たばかりの小国、白の国アルビオンと現在は黒の領域と呼ばれる大陸南部にあった黒の国アーテル。
4つの国の仲は決して良くはなかった。
大国であったバーミリオンとウィスタリアは、常に小競り合いを繰り広げていたし、アルビオンはようやく国としての体裁が整ってきたばかりで、他国からの侵略におびえているような状態だった。
そんな中で、最も平和な国と呼ばれているのが、アーテルだった。
アーテルは、魔力を持たない人間が集まった国だった。
民の中で身分の差はなく、全員が平等。
貴族も平民もなく、誰もが日々の生活のために一生懸命に生きていた。
そんな環境が作れたのは、この地に生えている不思議な力をもった大木のおかげだった。
アーテルの聖木。特徴的な黒漆喰のような幹を持つこの木には、人々の魔力を抑制する力があった。
魔力は争いを呼ぶ。
その魔力を使えない黒の国は、力なき者達が暮らすには、まさに理想郷だったのだ。
そんな黒の国にある時、特別な力を持った存在が生まれた。
それが、後に黒の王と呼ばれる存在。
少年の名は"ノワール"。彼は生まれながらにして、黒の魔力と呼ばれる特別な魔力を持っていた。
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