290.お兄ちゃん、息子に真実を伝える
さらに、1週間が過ぎた。
コリックは相変わらず忙しそうにしている。
なにせ、黒の国には人材がいない。
黒の使者と名乗っているメランとコリック。
その下にも、メランが黒の魔力で使役している傀儡のような存在はいるようだが、それらは全て末端の存在で、その他の国で諜報活動を行っているらしい。
情報自体は彼らから入って来るが、戦争の準備をするのはあくまでコリック一人。完全なワンオペだ。
僕も詳しく何をしているのかは知る由もないが、夕食だけは一緒に摂るようにしているからこそ、かえって彼の疲労がわかった。
それに引き換え、メランの方も相変わらずだ。
1日中一緒にいるわけではないので、彼が何をしているのかはっきりとはわからないが、たびたび廊下の窓枠に腰掛けて居眠りをしている姿を見かける。
本当に何をやっているのやら、という感じだが、敵側である彼がのんべんだらりとしてくれていた方が、エリアス達にとっては助かるという見方もできるか。
深く追求することはせず、僕はただただいずれ終わりが訪れるであろう、アシュレイとの日々を過ごしていた。
「アシュレイ。そろそろ昼食にしましょうか」
「はい、ママ」
この1週間でついに中学生くらいまで成長してしまったアシュレイ。
もう出会った頃のフィンよりも大きいかもしれない。
このペースだと、あと1週間もすれば、僕と同じくらいか、それ以上の年齢まで成長してしまうことだろう。
言葉遣いも、かなり大人っぽくなってきていて、少し違和感を感じてしまうほどだ。
凛々しくなった立ち姿に、嬉しいような、少しだけ寂しいような、そんな複雑な感情を抱いていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「コリック?」
ノックをするのはコリック。
そういう固定観念があったため、そう思って振り向いた僕だったが、目の前に立っていたのは、メランの方だった。
彼がノックをして入って来るなんて、初めての事だ。
「どうかしましたか。メラン?」
「少し黒の王の顔が見たくてね」
それだけ言うと、カツカツと靴を鳴らしながら、彼はアシュレイの前に立った。
そして、物色するようにその身を眺める。
「ふむふむ。やっぱりかなり成長したねぇ。この分だと、あともう少しってとこかな」
「何の話です?」
黒の国なりの成人式のようなものでもあるのだろうか。
「こっちの話さ。聖女候補様は、今まで通り、ママ役をやってくれればいいからさ」
「ママ役?」
その言葉に、ピクリとアシュレイが反応した。
「ママは、僕の本当のママじゃないの?」
今知ったというように僕へと視線を向けてくるアシュレイ。
そういえば……。
彼には、あまりきちんとその辺りの事をこれまで説明してきていなかった。
コリック達がたびたび"黒の王"と呼ぶので、自分が何か特別な存在であることは理解しているようだったが、その他の事はろくにわかっていなかったのかもしれない。
そもそも、彼がママと呼ぶので、自分もその気になっていただけで、結果そのままここまでズルズルと来てしまった。
今の彼ならば、自分に課せられた運命を受け入れ、理解することもできるかもしれない。
そう考えた僕は、少しだけ覚悟を決めると、ゆっくりと口を開いた。
「この機会に、きちんとお話しますわ。落ち着いて聞いて下さいまし、アシュレイ」
そう前置きすると、僕はアシュレイがどのようにして生まれ、そして、なぜ彼を育てているのかを搔い摘んで伝えた。
動揺するかと思ったが、彼は最後まで真剣な眼差しのまま、どこか腑に落ちたように何度もうんうんと頷いていた。
「なるほど、そういう事だったんだ……」
最後まで話を聞き終わったアシュレイは、情報を整理するようにわずかばかり目を閉じると、すぐに僕へと視線を向けた。
「意外と驚きませんでしたわね」
「十分に驚いたよ。でも、納得できることばかりだったから」
人生経験こそ浅いが、知能自体は決して低くはない彼の事だ。
物心ついてから今までの事を思い返して、僕の言葉に嘘がないということがすぐにわかったのだろう。
「しかし、黒の王か……。突飛な話にも思ったけど、なぜか自分でもわかる。僕が、その血を引いているのが」
拳を握りしめるようにしたアシュレイが、再びその指を開く。
すると、ほんのわずかだが黒の魔力が迸った。
「アシュレイ、魔力が……!?」
「少し前から使えるようになったんだ。ママに心配をかけたくなくて黙っていたんだけど……」
その言葉尻には、本気を出せば、もっと強い魔力を解放させることができることを暗に示唆していた。
やはり、彼は黒の王の末裔なのだ。
「ふふっ、次代の黒の王として、申し分無さそうだね。まあ、君が王になる頃には、敵はいなくなってるかもしれないけれど」
「それは、パパ……コリックさんが準備している戦争によって、ということですか」
「そーいうこと。君は黒の王として、この大陸の、いや、ゆくゆくはこの世界全ての頂点に君臨するのさ。はははっ!!」
どこか狂ったように笑いながらメランは言う。
何を思っているのかは定かではない。
アシュレイは、ただただジッと彼が笑う姿を眺めていたのだった。
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