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289.お兄ちゃん、息子の未来を憂う

 さて、ワンマンスバースデーを終えて、さらに1週間ほどが過ぎた。

 節目を迎えたからというわけではないだろうが、アシュレイの成長速度はますます加速しているのを感じる。

 身長も伸びて、もう僕の胸くらいまでの大きさになってしまった。

 身体の成長だけで言えば、おおよそ10歳くらいだろうか。

 それに付随して、精神的な部分も成長してくれれば良いのだが、こちらは身体よりも少しだけ遅い。

 知能に関しては決して低くはないのだが、やはりこの限られた環境の中で、あまり多くの経験ができていないことが大きいだろう。

 その上、甘え盛りなのか、身体は大きくなったというのに、まだまだ僕に抱き着いてくる。


「ママ!! 一緒に本読も!!」

「ええ、アシュレイ」


 最近は知識欲に飢えているのか、読書の時間が増えた。

 とはいえ、こうやって僕に抱かれるように本を読むのが好きなので、本にばかり夢中というわけでもないようだ。

 さすがに、昔みたいに、自分に読んで欲しいとは言わなくなったけど。

 それにしても……。

 大きくなった身体を抱きながら、僕は改めてアシュレイの顔を眺める。

 この世界の高貴な人物って、なんでまぁ、イケメンなんだろうね。

 少し前までは、可愛いとしか思わなかったアシュレイだけど、折に触れて、男前と感じる機会が増えた。

 いや、中身はまだまだ子どもなんだけども、ふとした瞬間に、その整った顔立ちに見惚れることがある。

 灰色の髪に金の瞳。整った鼻筋に、シャープになってきた頬の輪郭。

 うーむ、造形美とはこういうのを言うのだろうな。


「どうしたの。ママ?」

「あ、いえ、アシュレイは格好良いな、と思いまして」

「えっ?」


 ストレートに心情を伝えると、アシュレイの頬が赤くなった。

 おっ、これは今まで見たことがない反応だぞ。

 自分の容姿を褒められて照れる。

 それは、彼の精神的な成長の一つのようにも感じられた。


「ぼ、僕、かっこいい?」

「ええ、アシュレイはとても男前ですわ」


 キラーン、と矢印のようにした指先を顎に添えるアシュレイ。

 彼にとってはそれが格好良いポーズなのだろうが、とても滑稽で思わず吹き出しそうになる。


「そっか。僕って、格好良いんだ」

「そうですわね。きっと街に出たら、女の子達が放っておかないでしょう」


 実際、これだけ目立つ容姿だ。

 学園にでも行けば、きっと年下好きのお姉さま方にちやほやされることだろう。


「女の子……」

 

 ふと、アシュレイが考えるように視線を伏せた。


「女の子って、みんなママみたいに可愛いの?」

「ふぇっ!?」


 視線を上げ、真っすぐに僕を見つめながら、そんなことを問い掛けて来るアシュレイ。

 不意打ちのような視線と質問に、思わず、心臓がドキリとする。

 いやいや、何、動揺してるんだ。

 相手は、子ども同然のアシュレイだというのに。


「そ、そうですわね。女の子はみんな可愛いですわ」

「本当かなぁ……」


 なぜだか、納得しないアシュレイ。


「ママみたいな可愛い人が、そんなにたくさんいるわけない」


 ぶふぉぁっ!?

 この子ったら、ママのこと好きすぎでしょ!!

 ああ、それにしても、さっきから可愛い可愛い言われて、顔が熱くなってきた。


「で、でしたら、いつか自分の目で確かめてみたら宜しいですわ」

「お城の外に行って?」

「そうですわ」


 今までは、この環境の中で満足していたのかもしれない。

 外に行きたいとは、一度も言い出さなかったアシュレイが、初めて、どこか遠くへと想いを馳せるように窓の外へと視線を送った。

 身体に比べて、まだ心は少し幼いアシュレイとはいえ、そろそろ外の世界への興味も広がってくる頃合だったのだろう。

 しばらく、黙って虚空を見つめていたアシュレイは、再び僕へと視線を戻した。


「僕が外の世界に行く時は、ママも一緒に行ってくれる?」

「もちろんですわ。ずっと、ママはあなたと一緒です」


 ニッコリ微笑みながらそう答えると、彼は、満足したのか再び書物へと視線を落とした。

 そんな横顔を眺めながら、再び穏やかな時が流れる。

 戦乱は迫っている。

 外の世界どころか、もうこうやって二人で過ごす時間すら、無くなってしまうかもしれない。

 それでも、願わくば、もう少しだけ彼にじっくり大人になる時間を与えて欲しい。

 その憂いを表すかのように、僕の両腕は、いつしか自然とアシュレイの身体を強く抱きしめていたのだった。

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