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287.お兄ちゃん、息子の誕生日を祝う

 黒の領域の闇は深い。

 星の光さえも遠い彼方にあるような、そんな深淵の闇の中を銀色の影がゆらりと動いた。

 ゆらめいているのはその前に灯る炎も同様だ。

 冷たい闇の中に灯るたった一本のろうそく。

 影のひと吹きで、その炎はたちどころに立ち消えた。

 そして……。


「アシュレイ、お誕生日おめでとうございます!!」


 魔力灯の灯が灯り、光が部屋に満ちると同時に、僕はクラッカーをパンと鳴らした。

 紙吹雪が宙を舞う中、目で追うようにして、笑顔を浮かべるアシュレイの姿。

 今日は彼が生まれて1カ月目。

 ワンマンスバースデーとでも言ったところだ。

 生前の日本であれば、お宮参りなんかに行くタイミングだろうが、彼の身体はもうそろそろ小学校に入学するくらいの大きさ。

 一足飛びに成長をしているアシュレイだからこそ、今この時に、僕はお祝いをしてあげたかった。

 精一杯の気持ちを籠めて、拍手をすると、アシュレイは照れ臭そうに笑っていた。

 装飾もアシュレイと一緒に施し、いつもの無骨な食堂も、今日は少しだけ華やかだ。

 一応は、メランとコリックも拍手をしてくれているし、今この時だけは、普通の家庭の誕生日会のような雰囲気が確かにあった。


「ねえねえ!! ママ、プレゼントは!?」

「はいはい、アシュレイはせっかちですねぇ」


 誕生日の概要を説明してから、アシュレイの脳裏はプレゼントの事で頭がいっぱいだったようだ。

 彼にとっては大切な最初の誕生日。

 父やフィンの誕生日の時以上に、色々と考えたが、僕はこれを贈る事にした。


「ママからのプレゼントは、これですわ」


 期待に満ち溢れた表情で、僕から手渡された包みを受け取るアシュレイ。

 開けてもよい? という風に目で訴えて来る彼に、僕は頷く。

 ビリビリと豪快に包み紙を破ったその中から出てきたのは、小さな人形だ。

 数は4つ。

 それぞれ、アシュレイ、僕、コリック、メランを模している。

 この城の中で調達できるもので、どんなプレゼントが作れるか考えた時、僕の脳裏に浮かんだのは、フィンがたびたび父に献上しているあの人形だった。

 フィンが作っていたのをよく見ていたので、作り方はおおよそわかっていた。

 4体分の材料を集めるのはなかなか苦労したが、アシュレイがもう着ることのなくなった乳児用の服などを再利用する形で、なんとか調達することができた。

 さすがに、フィンほど上手くは作れなかったが、その分丁寧には作れたと思う。

 それなりに自信のあるプレゼントだったが、それを見た瞬間、アシュレイは呆然と固まっていた。

 も、もしかして、あまりお気に召さなかったのだろうか。


「ア、アシュレイ。ごめんね。やっぱり男の子に人形なんて……」


 慌てて何か代替物を用意しようかと思っていた最中、アシュレイがものすごい勢いでこちらを向いた。

 そして、その瞳は凛々と今まで以上に輝いている。


「ママだぁ!! ママとぼくぅ!!」


 そうして、嬉しそうに自分と僕の人形を掴んで、振り回すアシュレイ。

 どうやら感動するほど嬉しかったらしい。

 そんな姿を見ていると、夜なべして作って良かったと心から感じさせられる。


「へぇ、そんなものまで作れるんだ。聖女候補様」


 珍しく素直に感心したように、メランが言う。


「でも、俺はもっとカッコいーけどね」


 むしろ目元とかかなり美化しましたけどね。

 あんたはイケメンっちゃイケメンだけど、目つきが嫌らしいんだよ。


「パパ、ママー!!」


 自分の人形を置いて、今度は僕とコリックの人形でなにやら一人遊びを始めたアシュレイ。

 何を再現しているのかはよくわからないが、僕とコリックの人形をくっつけたり離したり繰り返している。

 ……なんかその動き、ちょっとだけ恥ずかしい。


「さ、さ、アシュレイ!! プレゼントはそのくらいにして、食事にしましょう!! 今日は、食後にケーキもあるのですよ」

「わぁ!! ケーキだぁ!!」


 ケーキで気を逸らしつつ、ようやく僕とコリックの人形を置いたアシュレイと共に、食卓へと着く。

 今日は食事も少し豪華だ。

 ローストチキンなんて初めて作ったが、なかなかどうしてアシュレイには好評だった。

 そして、食後はお茶と一緒に、ケーキに舌鼓を打つ。

 簡単なパウンドケーキだが、意外にもメランはしっかりと材料を集めてくれたので、それなりの物を作ることができた。

 以前にも僕お得意のカント〇ーマアムをおやつに出したことがあったのだが、その時以上の食いつきで、アシュレイはほとんどを一人で平らげた。

 身体の成長が速いためか、なかなかに健啖だ。

 そんなケーキに夢中の彼を頬杖をついて眺めていると、ふと隣に座るコリックの姿が目に入った。

 アシュレイの誕生日だというのに、今日の彼はあまり口数が多くない。

 忙しい中でも時間を作ってくれているのだろうが、逆に少し心配になってくる。

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