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284.ヒロイン、思い悩む

「はぁ……」


 学園の端にある暗い林の中、私は一人ため息を吐いた。

 あまり思い悩んだりすることのない性格だと周りからは思われている節のある私だけど、やっぱり心がどうにも迷ってしまう時というものはあるもので……。

 そういう時、決まってここに来ていた。

 ここは、私にとってある意味で始まりの場所だった。

 聖女候補としての始まりの場所。

 暁の騎士様に、剣の訓練をつけてもらった大切な場所だ。

 セレーネ様に並び立つなんて、考えてもみなかった私は、ここで初めてライバルになるための一歩を踏み出すことができた。

 聖女試験でどんなに行き詰った時も、ここに来ると、なんだか熱い胸のドキドキが蘇ってくるようだった。

 私に勇気を与えてくれるそんな場所。

 でも、今回ばかりは、いかに初心に戻ろうと、心が震え立つことがなかった。

 エリアス様から伝えられた言葉が頭の中を何度もグルグルと回っている。


『ルーナさん。セレーネ様を救うために、貴方には聖女になってもらわなければならない』


 最初は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。

 だが、伝えられたことの重大さに気づくと同時に、私は思わず大声で叫んでいた。

 それくらい突飛な発言だった。

 私と同じ聖女候補であるセレーネ様。

 聖女試験も終わっていないのに、そんなセレーネ様を差し置いて、私を聖女にしようというエリアス様の真意がまったく理解できなかったのだ。

 ただただ慌てるだけの私に、エリアス様は懇切丁寧に説明をしてくれた。

 黒の領域を進むためには、どうしても聖女の力が必要になるということ。

 今の聖女様では、体力的に黒の領域へと赴くことが難しいこと。

 私が白の根源(ホワイトオリジン)を受け継げば、その両方を解決することができるということ。

 エリアス様の話を一緒に聞いていたルカード様も、熟考するように深く目元を押さえていた。

 色々と問題があることは私にもわかった。

 正規の聖女試験の手順を経ずに、新しい聖女を決めてしまうということ。

 聖女となった本人が、黒の領域へと直接赴くことの危険性。

 そして、なによりも、仮に聖女になったとして、私が白の魔力をコントロールすることができるかどうか、ということ。

 本来であれば、強大な白の根源(ホワイトオリジン)を受け継ぐために、聖女試験に勝利した聖女候補は、1年間の修行生活を送ることになる。

 しかし、セレーネ様救出作戦の決行までは、もう2か月しかない。

 正直言って、この難題を乗り越えるだけの自信が、私には持てなかった。


「セレーネ様。私どうすれば良いんでしょうか……」


 遥か黒の領域の方角に向かって、私は問いかける。

 セレーネ様が遠くに行ってしまって、私にとって、いかにセレーネ様が必要な存在だったのか、改めて思い知らされた。

 入学当初、田舎者で、平民で、学もなくて、何一つ持ち合わせていなかった私は、周囲から浮いた存在だった、

 そんな私に手を差し伸べて、引き上げてくれたのは、間違いなくセレーネ様だ。

 この学園に来る時に、私はいじめられることを覚悟していた。

 同じ聖女候補である人は、碧の国の公爵令嬢と聞いていたから、きっと高圧的に接せられるだろうと考えていたのだ。

 しかし、現実は全然違った。

 セレーネ様は、私が思っていたような、そんな人ではまったくなく、むしろ、周囲の貴族令嬢達から、私を護ってくれる存在だった。

 美人で、何でもできて、優しいのに、なぜだか、たまに男の子みたいに感じることもある、不思議な人。

 すぐに、私の憧れの人になったセレーネ様。

 それから、ずっと近くにいて、イメージが変わるところもあったけれど、最初に出会ったあの頃の憧れは、少しも減ったりなんかしていない。

 セレーネ様に会いたい……。

 会って、あの優しくて、綺麗な声が聞きたい……。

 でも、そのためには……。


「随分悩んでいるようだな」

「あっ……」


 その時だった。

 聞き馴染んだ声。

 仮面越しの少しだけくぐもった声。

 木々の間からゆらりと炎のようなマントを揺らして現れたのは、ずっと会えず仕舞いだった、あの人だった。


「暁の騎士様……」

「久しぶりだな。ルーナ」


 最後の聖女試験が始まった頃、一度だけその姿を見ただけで、彼と言葉を交わすのはかなり久しぶりの事だった。

 おもむろに私の近くまで歩を進めた騎士様は、ゆっくりと膝をついた。


「ルーナ。お前に謝らなければならないことがある」

「えっ……」


 そう言うと同時に、騎士様は今まで一度も外したことが無かったマスクに手を掛けた。

 ゆっくりと剥がれていく銀色の仮面。

 その下にあったのは、私もよく知る、セレーネ様の婚約者様の顔だった。


「レオンハルト様……」

「そう。俺は、レオンハルト・カーネルだ」


 膝を落とし、見上げるように視線を向けて来るその姿は、紛れもなく、紅の国の王子レオンハルト・カーネル様に他ならなかった。

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