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283.碧の王子、計画を伝える

「マジか。にわかには信じられねぇ……」


 コリックが味方である論拠を説明し終えた僕。

 その前では、仲間達が絶句したように口を噤んでいた。

 無理もない。

 僕とて、未だに信じられない気持ちはある。

 だが、便せんのおかげで、全てが繋がってしまった。

 彼の正体は、黒の使者なんかじゃない。

 彼の本当の正体は、まず間違いなく、僕が考えていた通りの人物。


「本当にあの人がそんな大人物だとして、なぜ、姉様を……」

「そこまではわかりません。ですが、何かしらの意図があることは確実です」

「くだらん……」


 レオンハルトはそう言いつつも、フッと息を吐く。


「……と、普段なら吐き捨てるところだろうが。碧の国の叡智と評されるお前が言う事ならば、信じぬというわけにもいかんだろう」

「ありがとうございます。レオンハルト様」

「そ、その、エリアス様がおっしゃっている通りの人物だとすると、セレーネ様はご無事ということでしょうか……?」

「ええ、危害を加えられる心配はおそらくないでしょう」

「とはいえ、出来る限り早く動くに越したことはない。考えはあるのか?」

「はい。それを今から、皆さんにお伝えします」


 コホンと、前置きするように喉を整えると、僕は用意していた羊皮紙を壁に貼り付けた。


「"黒の領域への侵攻についての計画案"。これを実行に移します」

「侵攻計画だぁ? そんなもん作っていやがったのか!?」

「これも、彼が残していたものです。今こそ、黒を根絶やしにし、そして、セレーネ様を取り戻す時」

「エリアス様。もしかして、あれは……」

「ええ、そうです。フィン様」


 フィン様に向かって、僕はコクリと首肯を返す。


「ファンネル公爵家にお願いしていたあの一件は、今回を見越してのこと。いよいよそれを使う時が来たという事です」

「話が見えねぇ。わかるように言ってくれよ」


 さっきから、視線を泳がせているアミール様に向かって、僕は計画の詳細を丁寧に話した。


「すげぇ……。そんな質の武器を調達できたとすれば、鬼に金棒じゃねぇか!」

「ですが、さすがに準備に時間がかかりすぎるのでは?」

「すでに根回しは終わっています。諸々合わせて、侵攻作戦の開始は、60日後を計画しています」

「およそ2か月か……」


 一瞬、何か言いかけたが、レオンハルト王子は口を噤んだ。

 もう少し早く、と言いたかったのかもしれないが、彼も未来の王として、戦の準備をするということが、如何に金と時間がかかることか理解しているはずだ。


「戦の準備や指揮は、僕が受け持ちます。レオンハルト様には、他にやってもらいたいことが」

「ああ。お前の考えはおおよそわかった」


 聖剣を引き抜いたレオンハルト王子は、その切っ先を天へと掲げた。


「任せろ。セレーネの騎士として、俺は、必ずやり遂げて見せよう」

「エリアス様。ファンネル公爵家も全力で、この作戦に協力します。姉様は、絶対に取り戻す……!!」


 力強いレオンハルト王子とフィン様。

 出兵に関しても、もう一つの裏の作戦においても、彼ら二人の力は必要不可欠。

 頼りにさせてもらいたいところだ。


「エリアス様」


 と、声をかけてきたのは、ルカード様。

 彼もまた、今回の件で強い責任を感じている人物の一人だ。


「今回の件は、コリックを試験官に任命してしまった教会にも大きな責任があります。セレーネ様を取り戻すために、教会も出来る限りの力添えはさせていただきます」

「ええ、此度の計画は、白の国の協力なしには、実現しえません。何卒お力添えをお願いしたい」

「ちっ、今回ばかりは、俺は何もできそうにねぇな……」


 僕達の会話を聞きながらも、アミール様は歯噛みする。

 アミール様は、あくまで他の大陸の王子に過ぎない。

 動かせる兵もいなければ、自身で戦う力を持つわけでもないとなれば、できることは限られていた。


「アミール様には、セレーネ様が帰る場所を守っていただきたく思います」

「わかってるよ。だが、何か手伝えそうな事があれば、声をかけてくれ。劇団の連中も含めて、頭数はそれなりにある」

「助かます。そして、ルイーザ様」

「は、はいっ……!?」

「貴女にもお願いしたい事が」


 そう。今回の作戦において、彼女には重要な役割がある。


「侵攻作戦の駐屯地として、アインホルン領をお借りしたい。貴方には、伯爵様との仲立ちをお願いしたく」

「も、もちろん承りますわ!! 私も、セレーネ様を取り戻すために、働かせて下さいませ!!」


 懇願するように両手を結ぶルイーザ様。

 セレーネ様を思ってか、彼女の目にはずっと涙が浮かんでいた。

 だが、ただ悲観しているだけではなく、自分にできることを必死でしようとしている姿は、僕の目にはとても美しく映った。

 セレーネ様は本当に良い友人を持たれた。


「あ、あの……」


 そんなやりとりを遠巻きに見つめていたのはルーナさん。

 彼女は、普段とは違って、どこか思いつめたような表情で、僕を見ていた。


「私にも……私にも、出来ることはないでしょうか?」


 思わず口角が上がりかけた。

 正直、僕はその言葉を待っていた。

 彼女には、非常に大きな選択を迫ることになる。

 そして、彼女ならば、きっと……。


「ルーナさん。あなたにも、考えていただきたいことがあります」


 情を捨て去るようにしながら、僕はゆっくりと静かに、大きな選択肢を彼女へと語り出したのだった。

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