281.お兄ちゃん、腕輪をつける
「うふふ~♪」
僕はご機嫌だった。
なぜかって?
そりゃ……。
右手を掲げると、そこに嵌っているのは、新しい腕輪だ。
以前の腕輪に比べて、二回りほど大きくなった宝玉が、紫色に輝いている。
この魔力を吸収する腕輪さえ装着していれば、僕はやっとこアシュレイに触れることができるのだ。
「魔力を吸われてるのに喜ぶなんて……。聖女候補様って、実はマゾ?」
「ふんふふ~♪」
斜め後ろから着いて来るメランのコメントを華麗にスルーし、僕は一路子ども部屋を目指す。
思えば、この3日間は本当に大変だった。
コリックは思っていた以上にポンコツで、何をやらせても、何かしらトラブルを起こした。
何でもできるイメージの彼だったが、子育てばかりはその限りではなかったらしい。
その度にトラブルの後始末をリグ達とこなさなければならない僕は、普段以上にヘロヘロだった。
とはいえ、どんなトラブルがあっても、あの鉄仮面でやり過ごし、挫けることもなくお世話をし続けるのだから、根気強さだけは人並み外れていると言っても良いだろう。
まあ、さすがに3日目ともなると、色々と慣れて、かなりミスも少なくなっては来ていたし、及第点は上げても良いかな。
「あー、アシュレイ!! アシュレーイ!! うふふ~♪」
「普通にキモイよ。聖女候補様」
鼻歌交じりに、子ども部屋の扉を開ける。
すると、そこには、積み木で遊ぶアシュレイの姿があった。
そして、その横には、コリックの姿。
二人は真剣な眼差しで、高い塔のてっぺんに円錐型の積み木を乗せようとしていた。
「そうだ。いいぞ」
つま先立ちで背伸びをしつつ、プルプルと震える手で、慎重に積み木を降ろしていくアシュレイ。
緊張感の漂う中、アシュレイはごくりを唾を飲み込むと同時に、降ろした積み木から手を放した。
一瞬の静寂。
屹立した見事な木塔の威容を確認したコリックは、パチパチと手を叩いた。
「見事だ。黒の王よ」
「やったぁ!!」
コリックとハイタッチするアシュレイ。
そんな仲睦まじい様子を見ながら、僕もいつしか自然と両の手を打っていた。
「あっ、ママ!!」
僕に気づいたアシュレイが、てこてことこちらへとやってくる。
「見て見て!! 凄いでしょ!!」
「ええ、凄いですわ。アシュレイ」
褒めて褒めて、と言わんばかりに主張してくるアシュレイの頭を、僕は内心ウキウキで撫でる。
あー、この髪の感触!!
三日ぶりのアシュレイは最高だぜ。
いや、だけど……。
嬉々とした笑顔を向けて来るアシュレイを僕は改めて眺める。
たった三日直接触れられなかっただけだというのに、物凄く違和感があった。
明らかに、身長が伸びている。
それに、言葉もかなりはっきりとしてきたように思う。
普通の人間の年齢で言うと、そろそろ3歳くらいというところだろうか。
男子三日会わざれば刮目してみよ、とは言うが、改めて、この成長速度には驚嘆させられる。
「ママ?」
思わず、僕はアシュレイをギュッと抱きしめていた。
彼の成長は速い。速すぎる。
たった3日間触れられないだけで、こんなに成長を感じさせられるのだ。
これからは、1日1日をもっと大切にしないと、彼はすぐに大人になってしまう。
内心でそんな風に思いながらも、僕はにっこりとアシュレイに向けて微笑む。
「ずっとこうしてあげられなくて、ごめんなさい。今日はたっぷりママと遊びましょうね」
「わーい!! ちょうどママに見せたいものがあったんだ!!」
「あら、なにかしら?」
「えーとね……」
再び、てとてとと部屋の奥まで走っていった彼は、一枚の紙を持ってこちらへと戻ってきた。
「はい、これ!!」
「まぁ……」
僕は思わず声を漏らした。
アシュレイが持って来た1枚の紙。
そこには、牡丹色の髪をした一人の女性の姿が描かれていた。
間違いない。これは……。
「私を描いてくれたのですか?」
「うん!! そうだよ!!」
えっへんと、腰に手を当てながらドヤ顔をするアシュレイ。
よくよく見れば、絵の右下には、拙い文字ながらも、"ママ"という表記があった。
うー、こんなものまで描けるようになったんだなぁ……。
「ママ、嬉しい?」
「ええ、ものすごーー-く嬉しいですわ!!」
喜びを再び抱きしめる形で表現すると、アシュレイも同じく嬉々とした笑顔でそれを受け入れてくれた。
「はぁ……」
その時だった。
部屋の外から、そんな僕らの様子を眺めていたメランが、ため息を吐いた。
「本当に、くだらないなぁ……」
「何ですって?」
思わず、ギロリとメランを睨む僕。
アシュレイが僕のために描いてくれた絵の、何が下らないと言うんだ!!
「そんな家族ごっこ、意味ないよ。どうせ……」
意味深に言葉を濁したメランは、フンっと、鼻息を吐きつつ去って行った。
本当にいったい何だろうか。
憤りを霧散させるように顔を振ると、僕は3日間の労を労おうとコリックの方へと視線を向けた。
すると彼は、小さくなっていくメランの背中を、ただただジッと見つめ続けていたのだった。
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