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271.お兄ちゃん、授乳する

「おぎゃああああああああああっ!!」


 子ども部屋として用意された城内の一室。

 ベビーベッドに赤ん坊を降ろし、ホッとしたのも束の間、部屋の中にあるもの等を確認していると、すぐに大きな鳴き声が響き渡った。

 慌ててベッドへと駆け寄る僕。

 そのまま赤ん坊を取り上げると、再び胸へと抱く。


「ほら、よーし、よーし!! 良い子でちゅねー!!」


 ふわふわと頼りない感触の生後間もない赤ん坊。

 これだけ大きな声で泣けるのは元気な証拠であり、安心もできるというものだが、さすがにずっと泣かせておくわけにもいかない。

 だが、適度に振動を与えつつ、よしよしと声をかけてみるものの赤ん坊はなかなか泣き止んではくれない。

 徐々に焦って来る僕。


「眠いわけじゃないんだよな。うんちでもない。とすれば……」


 思い至ると同時に、僕の視線は自然と自分の胸へと移っていた。

 睡眠でも排泄でもなければ、お腹が空いていると考えるのが順当だろう。

 年齢の割には、かなり大きい自覚のある僕のそれならば、あるいは……。


「って、出るわけないだろ!! あたま沸いてんのか!!」


 ブンブンと頭を振る。

 いや、さすがに何を考えてるんだ自分は。

 冷静になれ。

 メランはともかく、コリックはきっと赤ん坊が生まれた後の事もちゃんと考えているはずだ。


「ねぇ、ミルクはありませんの?」


 僕をここまで案内してくれた小間使い型の魔物に問いかける。

 幸いな事に、人語を理解できるのか、彼(彼女?)はすぐさまひょこひょことした動作で棚の方まで歩いていくと、何やらがちゃがちゃと作業をし始めた。

 そして、すぐにこちらへと戻ってくると、僕へとミルクの入った小さな哺乳瓶を差し出した。


「ありがとうございますわ!!」


 片手でそれを受け取った僕は、しゃかしゃかと少し振ると、乳首を赤ん坊の口にそれを差し込んだ。

 だが、すぐにペッと吐き出すようにしてしまい、まるで吸おうとしてくれない。


「お腹が空いているわけではありませんの……?」


 いや、違う。

 単純に吸うという行為に慣れていないのだ。

 哺乳瓶の乳首の部分を見る。

 前世の哺乳瓶のように乳首の部分がゴムやシリコンででてきているわけではなく、ストロー状の竹筒のようなものの先端に薄布が張られており、そこに染みたミルクを吸うというような構造になっている。

 母乳で育てる事が当たり前のこの世界にあっては、哺乳瓶は間に合わせにすぎず、形状なども前世ほど洗練されていないのだ。


「ど、どうしたら……」


 どんどん焦りが強くなってくる僕の視線は、再び自身の胸元へと。

 もちろん乳は出ない。

 乳は出ないが、吸うという行為を学習させるには、あるいは"ホンモノ"を体験させるほかないのかもしれない。


「……ねぇ、あなた」

「リグ?」


 なんだという風に、首を傾げる小間使い系魔物に、僕はそっぽを向きながらもお願いする。


「少しの間、向こうを向いていて下さらない?」


 なぜだ、と言わんばかりの魔物だったが、僕の命令には従うように言われているのか、素直に僕に背を向けてくれた。

 それを確認した僕は、一度、泣き続ける赤ん坊をゆっくりとベッドへ下ろす。

 そして……。


「赤ん坊のため。赤ん坊のためだから」


 自分に言い聞かせるように呟きながら、僕はドレスの背中を緩めると、胸元をはだけさせた。

 顔が熱い。

 まさか、元々男である僕が、諸々すっ飛ばして、こんなことをするハメになるなんて。

 でも……。

 泣き続ける赤子を見ていると、どうしようもなく心が痛む。

 これが母性なのだろうか。

 いや、今はそんなことを考えてもしょうがない。

 ゆっくりと赤ん坊を抱き上げると、僕は──




「ふぅ……」


 なんとかミルクを飲んだ赤子を再びベッドに下ろし、僕はへなへなと床へと座り込んだ。

 かなり恥ずかしかったが、僕の考えは図に当たり、吸い方を学習した赤ん坊は、途中で哺乳瓶にすり替えても、きちんとミルクを吸ってくれた。

 ケフッとゲップをして、少しミルクを戻してしまいもしたが、それでも満足したのか、今は穏やかな寝姿を見せてくれている。


「一気に疲れちゃったなぁ……」


 まさかの授乳体験に、精神的な疲労でヘロヘロになっていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。

 ノックするということは、メランじゃない。コリックだろう。

 予想通り「入るぞ」と一声かけて部屋へと入ってきたのは、コリックの方だった。


「どうだ。黒の王の様子……は」


 突然、まるで石化したかのように固まるコリック。

 こんな彼の反応、初めて見るな。


「どうされました?」

「……いや、なんでもない。とりあえず服をきちんと着ろ」

「服?」


 一瞬、何のことかと思ったが、自分の胸元を見て気づく。


「あっ……」


 しまった。僕、まだちゃんと服を……。


「タイム!! タイムですわ!!」


 慌てて、コリックに背を向け、ドレスをきっちりと着直す。

 ぜ、絶対、胸見られたよな……。

 な、なんで、こんなに恥ずかしいんだ……!?

 別に裸なんて見られようが、元々男の僕にとっては何とも……。

 その時、一瞬、レオンハルト達の顔が頭に浮かんだ。

 そして、思ってしまった。

 彼らではなく、最初に肌を見せたのが、コリックだという事実。

 それが、なんか……嫌だって。


「うぅー!!」


 複雑な心情をどう表していいかわからず、唸り声を上げる僕。

 そんな僕を、コリックと小間使い魔物は、首を傾げながら眺めていたのだった。

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