268.お兄ちゃん、自分の異質さに気づく
「お前の持つ、"聖女とは異なる"白の魔力。私達は、それが欲しい」
「へっ……?」
聖女とは異なる、って……。
いや、僕の魔力も聖女様の魔力も、強さに差はあれど、白の魔力には違いないと思うんだけれど。
「やっぱり、わからないよねぇ。自分が如何におかしな存在であるかということがさ」
ニヤリと笑うメラン。
相変わらず、その一つ一つの態度だけで腹が立つな。
「君の白の魔力はさ。"強すぎる"んだよ」
「私の魔力が強すぎる?」
「気づいていないみたいだけど。君はすでに、聖女以外では持ち得ないほどの膨大な白の魔力をその身に宿してる」
「と、言われましても……」
魔力を吸収する腕輪を着けられているせいで、今は自分の白の魔力を確認する手段すらない。
あれ、でも、そういえば、以前この腕輪をつけられたときは、歩くこともままならないほどだったんだけど……。
「気づいた? 君の魔力は剣戦の時よりも、遥かに成長してるのさ。その腕輪でも全ては吸いきれないほどにね」
「そんな。でも……」
そこで、ハッと思い出す。
そう言えば、少し前から、僕といるとやたらと身体の調子が良いと、ルイーザやルーナが言っていた。
あれは、もしかして、無意識的に有り余る白の魔力を解放して、みんなを癒してしまっていたの……か?
それに、シーダの苗の成長速度だって……。
「思い当たる節があるんじゃないの?」
「それは……」
「本来、聖女候補が、候補であるうちにそれだけの魔力を持つことはない。あくまで聖女候補は器に過ぎないのだ。聖女から白の根源を受け継ぐためのな」
確かにそうだ。
初代聖女様が操ったという原初の白の魔力──白の根源。
黒の領域を除いた大陸全てを覆い尽くすほどのその圧倒的な魔力は、初代聖女様から代々受け継がれてきたものであり、聖女候補達が生まれ持ったものではない。
「お前は、器というには、すでに中に満ちているものが大きすぎる」
「でも、なんで、そんな……」
「そりゃあ、あれだけたくさんの男の子達に囲まれてればねぇ」
「えっ……?」
男の子達……レオンハルト達のことか?
でも、それと僕の魔力にどんな関係が?
「白の魔力を成長させる仕組みは簡単さ。恋のドキドキ。それを感じれば感じるだけ、白の魔力は強くなる」
「……はぁ?」
なんじゃそりゃ。
恋のドキドキで魔力が成長するなんて、そんなわけが……。
「あれれー。信じてないなー。でも、胸に手を当てて考えてごらんよ。覚えがあるんじゃないのぉ?」
ここ最近、僕は5人もの攻略対象の男性たちから告白された。
それぞれから真摯な言葉を戴く度に、僕の胸は確かにドキドキしていたことだろう。
そして、同時に、シーダの苗は加速度的な成長を果たした……。
「繋がったんじゃない?」
「ほ、本当にそうだとしたら……」
ルーナの白の魔力が努力のわりにあまり成長していなかったことにも説明がつく。
彼女は恋をしていなかった。
だから、どんなに頑張っても、癒しの力を使うこともできなければ、シーダの苗が大きく成長することもなかった。
「君はさ。幼少の頃から、いーっぱいドキドキしてきたんじゃない? それこそ、たくさんのイケメン君達に囲まれてさ。ほんとに罪な女だよねー。でも、そのおかげで、君は初代聖女様に次ぐほどの膨大な白の魔力を身に付けることができた。いやぁ、恋って本当に素晴らしいねぇ!!」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、メランは言う。
認めたくはない。
でも、認めざるを得なかった。
僕は恋をしていた。
だから、本来のゲームのセレーネよりも、遥かに強い白の魔力を持つことができてしまった。
ヒロインであるルーナを差しおいて……。
ハッとして、僕はコリックへと視線を向ける。
「あなたが、私をドキドキさせようとしていたのも……?」
「実際に確かめてみたかった。お前の白の魔力が、どのように成長していくのかをな」
そんな理由で、年若い乙女に密着したりなんだりしていたのか、この人……。
益々信用できなくなるわ。
「説明を続けるねー。君が男の子達とイチャコラして鍛え上げた白の魔力は、聖女様の持つ白の根源とは少しだけ違う。君もある程度他人の魔力を感知できるなら、わかるんじゃない。同じ魔力でも、使う人によって、その性質は微妙に違うと」
「ええ、それは存じ上げていますが……」
同じ碧の魔力でも、フィンのそれがスカイブルーだとすれば、エリアスのそれはマリンブルー。それくらいの違いを感じることはある。
「聖女様の魔力と似て非なる君の魔力は、俺達、黒の魔力を持つ存在にとって、非常に都合がいいのさ。俺達は、君という"白"を経由することで、聖女の持つ純粋な"白"への耐性を身に付けることができる」
「耐性……もしかして、私から奪った魔力で」
「そうさ。剣戦の時、君から奪った白の魔力。コリックはさ。それを常に身に着け続けることで、純粋な白の魔力への耐性を少しずつつけることができた」
「だから、黒の存在にも関わらず、白の国へも入国することができた、と?」
「そーいうこと!」
まさか、僕から奪った魔力をそんな風に利用していたなんて。
つまるところ、今回の誘拐事件は、完全に僕自身の落ち度であるというわけだ。
油断していたつもりはないが、あのドラゴンも含めて、黒の存在がここまで狡猾で計画的だとは予想していなかった。
「あの時、君から奪った魔力じゃ、せいぜいコリック一人にある程度の耐性を付与することしかできなかったけどね」
完璧な耐性ではない。
白の泉で、コリックが体調を崩していたのは、そのためか。
「メラン。あなたは、なぜそんなにも白の魔力について詳しいのですか……?」
「まあまあ、そこはいいじゃない。俺は博識だってことで」
茶化しつつも、メランはパンっと手を叩く。
「さて、それじゃ、君が育てたその白の魔力。いよいよ使わせてもらうとするよ」
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