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267.お兄ちゃん、謁見の間へ行く

「口に合わんか?」

「…………いえ」


 驚くほど、きちんと用意された朝食。

 ナイフとフォークを両手で構えながらも、僕はあまり食が進んでいなかった。


「無理もないよね~。いきなりこんな場所に連れて来られて、バクバク朝食食べられる娘なんてそう居ないだろうし」


 テーブルの右隣に座ったメランが、そんなことを言う。

 同じく、左隣に座ったコリックも上流階級の紳士かと思うほど丁寧な所作で口元を拭うと、口を開いた。


「食べてもらわねば困る。お前は私達の救世主になる存在だからな」

「また、それですか……」


 度々出て来る"救世主"という言葉。

 いったい、彼らにとって僕という存在は何なのだろうか。


「説明が必要だろう。食事を終えたら、とある場所へお前を案内する。そこで、我々の目的を伝えよう」

「だから、今はたーんを召し上がってね。聖女候補様」

「…………わかりましたわ」


 切り替えるようにナイフとフォークを動かすと、キドニーのソテーを口へと運ぶ。

 ひんやりとした肉の食感は良い材料を使っているようだが、味は……うーん、材料のわりに普通。

 誰が作っているのか知らないが、あまり料理の腕は宜しくないらしい。

 それでも、今は腹ごしらえをしておかねばならない。

 パクパクと美味くも不味くもないそれを腹へと流し込んでいるのを、メランとコリックはどこか満足げに眺めているのだった。

 ……なんか腹立つな。




 さて、食事を終え、またもなが~い通路を歩かされる僕。

 この城、無駄にでかい。

 寝室から食堂までもえらく距離があったが、今度はいったいどこに連れて行かれることやら。


「今から行くのは、謁見の間ってとこさ」


 つまるところ、いわゆる王座がある場所ということ。

 となると……。


「もしかして、黒の王が……」

「残念だけど、黒の王はもうずーっと昔に死んじゃったよ」


 その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。

 黒の王は遥か昔の人物だ。

 実は、今まで生き延びていました、なんてことになったら、この大陸中がパニックになってしまう。


「今は空の玉座があるだけ。でもね……まあ、これは見てもらった方が早いか」


 意味深な笑顔を浮かべるメラン。

 そして、しばらく歩いた僕らは、いよいよ謁見の間に辿り着いた。

 自動ドアのようにかってに開いた大扉。

 豪奢なレッドカーペットの先には誰も座ることのない漆黒の玉座と、そして……。


「何ですのあれは……?」


 大樹と一体化し、ところどころ根がはびこる城内にあって、この謁見の間だけはその密度が違った。

 木の幹そのものが貫通しているのだろう。

 玉座のすぐ後ろにはうろのようになった部分があり、そこには一抱えはある巨大なつぼみが鎮座していた。

 僕の質問には答えず、絨毯の敷かれた階段を上るメランとコリック。

 近くまで来ると、尚の事そのつぼみの大きさがわかった。

 禍々しいオーラを放つそのつぼみには、言い知れぬ存在感がある。


「いよいよってわけだねぇ」

「ああ」


 訳知り顔で頷き合う二人。

 どうやら、僕が連れて来られた理由は、このつぼみにあるらしい。


「ちゃんと説明して下さいませ」


 半ば憤りと共にそう伝えると、コリックはコクリと頷いた。


「我々がお前を必要とした理由が、このつぼみだ。このつぼみの中には、黒の国復活のための可能性が残されている」

「黒の国の復活……」


 邪教徒の目的は、黒の国を復活させること。

 それは、知っていたはずだが、改めて直接使者からその事を聞かされると、実感がひしひしと湧いてくる。

 夢物語などではなく、この人たちは本気で黒の国を復活させるつもりだ。

 コリックの断固とした口調からも、それは明らかだった。


「ま、まさか、聖女候補である私を生贄に、黒の王の復活を……」

「そんなことはせん」


 一蹴される僕。

 てっきり、そんな絶望的な展開になるやもと心臓が竦み上がる思いだったのに、そんなスパっと言われたら、拍子抜けも甚だしいわ。


「お前の命など捧げたところで大した価値にはならん」


 ひどっ!!


「私達が欲しいのは、お前の命ではない」


 癖になっているのか。もう眼鏡をかけていないのに、眼鏡を上げる所作を挟みつつも、彼は言った。


「お前の持つ、"聖女とは異なる"白の魔力。私達は、それが欲しい」

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