265.女神からの天啓 その1
──と──こ────くとよ。
ぼんやりとした思考の中、誰かの声が聞こえた。
誰だ?
聞き覚えのない声だ……。
いったい誰の事を呼んでいる……?
徐々にはっきりしてきたその声が、"前世の自分の名"を呼んでいることに気づいた僕は、その瞬間に目を覚ました。
「えっ……」
ここは……いつもの……?
僕が立っていたのは、遥か彼方までも真っ白で何もない空間。
そう、半年に一度、妹と出会うことのできるあの場所だ。
だが、いつも妹が立っているその場には、誰の姿も見えはしない。
いや、そもそもが前回出会った日から、まだ二か月ほどしか経っていない。
二つの月が次に重なる晩は、少なくとも試験が全て終わった後だったはずだ。
これはいったいどういう……?
『ようやく目覚めましたか』
「ふぇっ!?」
どこからか、大人の女性の声が聞こえて、僕は思わず周囲を見回す。
だが、声の主らしき者の姿は一つも見つからない。
幻聴か?
いや、でも、いやにはっきりと……。
『私は、この世界へとあなたを送り込んだ女神』
「なっ……?」
女神、だと……!?
ここに来て、そもそもの原因が、いきなり僕に話しかけてきた……?
「ちょ、ちょっと待って!! あんたが、僕をこの世界に送った……!?」
『はい、そうです』
つまるところ、僕と妹の送る先を間違えたあのドジっ子女神ということ。
姿は見えずとも、おおよそ声がしていると思われる天に向かって、僕は拳を握りしめる。
「あんたのせいで、俺と優愛は大変な目に……!!」
『あなた達に、不要な苦労をさせてしまったことはお詫びいたします』
「今更詫びられても……」
もはや、僕も優愛も3年以上の月日をそれぞれの世界で過ごしている。
その間、一度も何の説明もせず、あまつさえその存在さえ現すことのなかった女神が、今更いったいなぜ僕に話しかけてきたのか。
『世界は、新たな可能性へと動き始めました』
未だ収まらない僕の憤りなど無視して、切り替えるように話を進める女神。
新たな可能性?
それって、優愛が言っていた、"2"の段階へとゲームが進んだということなのだろうか。
『あなたという存在が、この世界を変えつつあります』
「いや、それってどういう……」
『全ては"必然"を壊すために。この世界に救いを齎すため、あと少しだけ、力を貸して下さい』
「いや、だから……」
抽象的な事ばかりで、僕の頭には疑問符が浮かぶばかりだ。
救い……。
そう言えば、コリック先生も、僕の事を"救世主"だなんだのと……。
「って、そうだ!! 僕、黒の使者に攫われたんだった!!」
自分の境遇をようやく思い出した僕は、頭を抱える。
そうだよ。
僕ってば、白の泉でコリック先生に拉致られたんだよ……。
今は気絶してるだけで、実際はドラゴンの背に揺られて、どこかの空を飛んでいるのだ。
「あわわわ……僕っては、どうすれば……」
『案ずることはありません』
どこかあのコリック先生にも通じる抑揚の少ない声でドジっ子女神は言葉を紡ぐ。
『これまで通り、あなたがあなたらしくありさえすれば、自ずと道は拓けるでしょう』
「いや、だからさ……」
抽象的過ぎるんだってばよ。
もう少し具体的な助言を下さいというか、なんというか。
いや、もう女神的な力でなんとか解決して欲しいというか。
と、その時、白い空間にブレが生じた。
どうやら、この女神との会話もこれで終わりのようだ。
「あんた……いや、女神様」
居住まいを正すと、僕は女神の声がする方へと頭を下げた。
「僕は自分の事は自分でなんとかする。だから、優愛の奴が困っていたら、助けてやって欲しい」
『…………私の力が許す限りの事はいたしましょう』
「それだけ聞けて良かった」
あっちは今、黒雷イベントで大変みたいだからな。
こっちも大変は大変だが、自分の力でできることだって、まだまだあるはずだ。
グッと、決意するように拳を握りしめた瞬間、白の空間が今度こそ完全に揺らいだ。
マーブリングのようにグルグルと回る景色の中で、僕は瞳を閉じる。
女神は"あと少しだけ力を貸してほしい"と言った。
僕がこの世界で果たすべき役割は、終わりに近づいているということだ。
その終わりが、いったいどんなものかはわからない。
でも……。
「みんなが幸せになれる道を目指すっきゃないよな」
本来のゲームのエンディング。
それよりも、もっと素晴らしいエンディングを目指して、僕はとにかく進もう。
そう心に決め、僕は穏やかな心で意識を手放したのだった。
これにて、聖女試験編は終了です。残りあと2章予定。最後までお付き合いいただけると幸いです。
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