262.お兄ちゃん、先生に告白される
「セレーネ・ファンネル……。私は、お前が欲しい」
熱の籠もった視線を僕へと向けて来るこの御仁。
コリック先生。
アルビオン学園の教員であり、ルカード様に代わって聖女試験の試験官を務める男。
何を考えているのか全然わからない無愛想なこの人が、普段の鉄面皮を取り払って、好きな女の子に告白する男の子のように熱い眼差しを僕へと向けている。
いや、"ように"じゃなくて、実際に告白されているのだ。
ようやくそこまで考えが至った時、ピーっと音でも立てそうなくらい、僕の頭が一瞬で茹った。
は?
何を言ってるのこの人?
だいたい今まで、そんな素振り一度も……。
いや、あった。
そうだ。新入生代表としての挨拶の練習をしているときも、彼にこんな風に接近されたことがあった。
そして、彼はあの時、こう僕に問いかけた。
ドキドキするかどうか、と。
「先生……。また、あれですの……?」
スッと、茹っていた頭が冷える。
さすがに前科があるのだ。
おそらくこれも、彼が時折やる、僕を"ドキドキさせたがる病"の一種なのだろう。
それに思い至れば、最近恋愛脳になりがちな僕の頭も覚めるというものだ。
ジトーっとした視線を彼へと向ける僕。
だが、それでも、彼は僕への眼差しを変えない。
あれだとわかっていても、ここまで真剣に見つめられると、なんだか恥ずかしくなってしまう。
「せ、先生。いい加減に……」
「私は、お前が欲しい」
また、言った!!
っていうか、そのウィスパーボイスやめて!!
首筋がなんだかむず痒くなるから!!
「ド、ドキドキしてますから!! もう!!」
許してと言わんばかりに伝えると、そんな僕の肩に彼が触れた。
「先生……?」
「お前を私のモノにする。それが、私の目的だ」
「ほ、本気でおっしゃってます……?」
「ああ」
有無を言わさぬ断定口調。
何、もしかして、これまでのドキドキさせるあれも、彼なりのアプローチだったのだろうか。
そう考えると、再び頭が熱を帯びて来る。
やっぱりこれ、本物の告白じゃんか……!!
「あれ、なんだかどこかで声が聞こえるような……」
その時、ルーナの声が泉の方から聞こえた。
やばい。今この状況で、ルーナやルカード様に会うのは非常にマズい。
木の幹に壁ドンされているという状況に加え、誤魔化しきれない顔の赤さ。
こんな場所でこんな体勢で、なんて言い訳したらよいかなんて、もうわからない。
二人に見られるかもしれないという緊迫感が、より心臓をバクバクと高鳴らせる。
もうドキドキを超えて、バクバクだ。
身体まで動き出してしまいそうなほど、僕の心臓は激しく鼓動を続けている。
「お前に知って欲しいことがある」
そんな状況の中、いささかもブレない視線を向けながら、彼は口を開く。
いったい何を僕に知って欲しいと言うのだろうか。
実は前々から僕が好きだったとか?
いや、もっと昔に、実は社交界で会っていて、ひとめぼれされていたとか?
どこか期待した気持ちでいると、ようやく彼は言葉を紡いだ。
「私は、とある密命を受けて、この国へとやってきた」
「………………へ?」
あれ、なんか話がおかしな方向へ……。
き、期待していた知って欲しいことと、あまりにギャップが……。
「せ、先生……?」
「目的はいくつかある、一つはお前自身を手に入れること。そして、お前が育てたシーダの花を手に入れること、だ」
僕の戸惑いなど一向に無視して、勝手にドンドン話を進めていくコリック先生。
僕や聖花を手に入れることが、彼の受けた密命?
じゃあ、やっぱり学園の先生や教会の試験官という立場は偽りのもので……。
「わ、私を手に入れることに、何の意味が……?」
「お前は、私達を救ってくれるかもしれない存在だ」
「先生達を……救う……?」
「そう。私達は──」
先生が、言葉を紡ごうとしたその瞬間だった。
「セレーネ様!!」
ルカード様の声が響いたと思った瞬間、身体の横から強い衝撃が僕を襲った。
思わず、ウっと息を詰まらせた僕だったが、すぐに気づく。
自分がルカード様の腕の中にいるという事実に。
「ルカード様……」
「セレーネ様。無事で良かった……」
心底、ホッとしたという表情を浮かべたルカード様は、僕の身体を支えながらも、先ほどいた場所からこちらを見ているコリック先生へと鋭い視線を向けた。
「ルカード君。セレーネを渡したまえ」
「お断りします。あなたの事は信用できない。この森から拒絶されているあなたは」
「えっ?」
森から拒絶って、どういう……。
「やはり気づいていたか」
「ええ、この聖なる森は本来何の変哲もない穏やかな森です。ですが、仮に邪な心を持った者が足を踏み入れた場合、この森はそれを排除しようとします。あとは消去法で、拒絶されているのは、あなただということは明白です」
確かに、聖女候補である僕とルーナ、そして、白の魔力に次ぐ神性を発揮する翠の魔力を持つルカード様が、森から拒絶されるはずがない。
「それにあなたは霧が出た時、私の手を払って、セレーネ様の手を掴んだ」
「えっ……?」
つまり、意図して僕と二人っきりの状況を作ろうとしたということ。
じゃあ、やっぱり、コリック先生は……。
「ふふふ……」
不気味な笑い声が聞こえた。
今まで聞いた事がないような、狂気じみたコリック先生の笑い声。
同時に、彼の身体から黒い瘴気が溢れ出る。
「さっき知って欲しいことがあると言っただろう。セレーネ・ファンネル」
眼鏡の奥の瞳を真っ赤に染め上げたコリック先生は、僕に向かって、こう告白した。
「私は……"黒の使者"だ」
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