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256.お兄ちゃん、ペットの粗相に慌てる

「はぁ、セレーネ様とご一緒に、こんなふうにピクニックに出かけられるなんて、私幸せですわ」

「あ、あはは……」


 ピクニックじゃないんだけどなぁ……。

 嬉々として笑顔を向けて来るルイーザに僕は苦笑いを浮かべた。

 まあ、ルーナもあからさまにウキウキした様子だし、この賑やかな雰囲気じゃそう感じるのも仕方ないよな。

 試験の一環とはいえ、泉まで行って、聖水を汲んで苗に与えるという簡単な内容だ。

 正直なところ、僕の方もちょっと気が緩んでしまう部分はあった。

 コリック先生に気を配りつつも、周りのみんなと談笑しつつ僕らは目的地を目指す。

 しかし……。

 のほほんとしつつも、気になるのは周りの男性陣の事だ。

 僕へと告白してくれた5人の攻略キャラ。

 レオンハルト、ルカード様、アミール、フィン、エリアス。

 表面上、彼らは普段と変わりないように見えるが、その実、どう思っているかはわからない。

 たぶん、お互いに、それぞれ僕へとアプローチしたことを知っている者同士もいるだろう。

 そんな彼らの前でどう振舞えばいいのか、僕には未だわかっていなかった。

 正直、ルイーザやミアが来て、積極的に僕に話しかけてくれているのは、かなり助かっている。

 特定の人物とあまり親し気に話すと、角が立つだろうか、とかそんなことばかり考えてしまっていたから。


「ちっ……」


 小さく舌打ちの声が聞こえた。

 その主は他でもない、アミールだ。

 僕へと告白してくれた攻略キャラ達のうち彼だけは、この状況にあっても積極的に僕へのアプローチを継続しようとしているようだったが、それはミアによって完全に阻まれていた。

 去年の夏の一件を経て、ミアとアミールは犬猿の仲だ。

 彼女にとって、アミールは僕の周りを飛ぶ悪い虫なのだろう。

 妹に護ってもらう姉というのも、少し情けなさを感じるが、正直ありがたくもあった。

 5人の中でも、特にアミールにはどう接していいのか僕はわからなかった。

 彼は、自分から俺の方へと来い、と言った。

 いかにも俺様系の彼らしい告白だったと言えるが、その後、僕が自分から彼の元へと行くことはなかった。

 彼が嫌いなわけじゃない。

 いや、むしろ、彼の好きな事を純粋に突き詰めようとする姿勢は尊敬するところではあるし、その人を引っ張っていくカリスマ性や多才さにもいつも驚かされてばかりだ。

 男性としても……うん、正直魅力を感じてはいる。

 普段の粗野な態度に反して、雰囲気づくりの上手い彼は、いつだって僕が知らない世界を教えてくれた。

 彼といると、退屈することはまずない。

 そして、自分第一に見せかけつつも、彼は周りの人をよく見ている。

 落ち込んでいたら、いつも一番に気づいて励ましてくれるし、強引に見せつつも、本当に嫌だと感じた事はすぐに止めてくれる。

 そんな彼の事を僕も心の中では憎からず思ってはいた。言わないけど。


「おっ、妹ちゃん。あっちに大きな木が見えるぞ」

「気を逸らそうとしても無駄ですわ」


 僕とアミールとの間に常に身を割り込ませているミア。

 その気を何とか逸らそうとするアミールだが、一向に上手くはいっていないらしい。


「本当に鬱陶しい妹だな……」

「何か言いまして?」

「いや、何でもないさ」


 わざとらしく爽やかに笑って見せるアミールを見て、僕もやれやれと肩を竦める。

 シュキと違って、ミアは僕の義妹という立場だから、彼もあまり強くは出られないようだ。

 と、二人が牽制し合っているのを眺めていた時だった。


「あっ!!」


 今日も今日とて、ミアの長い髪に埋もれるようにして眠っていたもぐぴーが目を覚ました。

 そして、突然飛び上がる。

 何事かと思った次の瞬間、彼はとある人物の頭へと飛びついていた。

 そう、僕達の前方、ルカード様と並んで歩く、あの鉄面皮の頭へと……。


「あ、あわわ……」


 彼の性格を知っているがゆえに、思わず僕は両手で口を塞いだ。

 怒る。絶対怒る。

 たとえ、人畜無害の可愛らしい半精霊モグラと言えど、そんなことは関係ない。

 歩を止め、微動だにしない彼に戦々恐々とした想いを抱いていた僕。

 だが、永遠とも思える一瞬の後、彼はゆっくりと自分の頭に張り付いたもぐぴーを片手で持ち上げた。


「この生き物は……」


 なぜだかジタバタと彼の懐に潜ろうとするもぐぴーをマジマジと見つめるコリック先生。

 そんなコリック先生に、ミアが慌てて頭を下げる。


「し、失礼しました!! コ、コリック先生!!」

「え、えっと、コリック先生。その子は、以前私が浄化した魔物……いや、魔物化した動物でして……」

「浄化した……だと」


 一瞬目を細めたコリック先生は、可愛らしくもがき続けるもぐぴーをしばらく眺めた後、意外にも丁寧な所作でミアへと手渡した。


「ペットはきちんと監督しておくがいい」

「あ、ありがとうございます……!!」


 あ、あれ、あんまり怒ってない?

 むしろ、なんだか興味深そうにもぐぴーを見ていたようにすら思う。

 もしかして、ああ見えて、彼は可愛い物好きなのだろうか。

 家に帰ったら、部屋にぬいぐるみがいっぱい置いてあって、いつもおしゃべりしていたり……。

 いや、さすがにそれはギャップ萌えせんわ。あの年齢と容姿でそれはさすがに僕もちょっと引くわ。


「何をボケっとしている」

「あ、いえ、すみません」


 頭の中で、あなたがぬいぐるみと戯れている光景を想像していました、とは言えず平謝りする僕。

 そうして、再び僕らは歩き始めた。

 横を見れば、腕の中で未だジタバタとしているもぐぴーをミアが必死に抑えている。

 あんな様子を見るのはこれが初めてだ。

 もしかして、もぐぴーの方がコリック先生を気に入ったのだろうか。

 彼にも好みの魔力ってものがあるみたいだし。

 そう言えば、コリック先生の魔力は何色なんだろう?

 紅、碧?

 それとも、ルカード様と同じく翠なのだろうか。

 未だ彼が魔法を使っているところを見たことがない。

 試験官になるくらいだから、きっと彼も強い魔力の持ち主なのだろうな。

 そんなことを考えながら、僕は黙々と歩く彼に遅れないように歩を進めていくのだった。

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