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249.お兄ちゃん、遠乗りに誘われる

 五月病という言葉がある。

 医学的な病名というわけではなく、学生や社会人などが、五月の連休後になんとなく憂鬱だなぁ、と無気力になる状態の事を表す通俗的な言葉。

 学年が2年生になってひと月経ったからというわけではないが、今の僕の状態はまさにそれだった。


「はぁ……」

「ヒィーン?」


 鞍上でため息を吐く僕を、クレッセントも何だか心配しているようだ。

 大丈夫だよ、と首元を撫でると、彼女は気を遣ったのか、それきり軽快に歩くのを再開した。

 今僕がいるのは、第2試験の時もお世話になった郊外の牧場。

 一人っきりで考える時間が欲しくて、僕は雄大な草原をクレッセントに跨り、闊歩していた。

 穏やかな風景の中で、この陽気だ。

 普段なら考え事など置いておいて、原っぱに横にでもなりたいところだが、さすがに今はそんな気分にはなれない。

 一気にいろいろな事がありすぎた。

 レオンハルトに告白されて。

 ルカード様に告白されて。

 アミールに告白されて。

 ついには義弟のフィンにまで告白された。

 もしかして、僕って、本当は悪役令嬢ではなく、ヒロインなのではないだろうか。

 そんな風に考えてしまうくらいには、今の僕はモテすぎている。

 僕がモテてどうすんだよ。ルーナに行くのが常道だろう。

 と、嘯いてはみるものの、正直なところ、結構……いや、かなり嬉しかったりする。

 この世界に来たばかりの頃は、野郎と恋愛なんて絶対嫌だと思っていたのに、本当に僕は変わってしまったらしい。

 考えてみれば、元来のセレーネは惚れっぽい性格だった。

 そんなセレーネとして12年も生活したという下地があったわけで……。

 そういう意味で言えば、前世の記憶を取り戻したあの時点で、すでに僕は、前世の僕とは違っていたのかもしれない。

 とにもかくにも、本来のゲームの流れからは、もはや大きく逸脱してしまった。

 やはり、自分をヒロインだと思って行動していた最初の半年間で積み上げたものが大きすぎたのかもしれない。

 とすれば……。


「やっぱり、そうなるよな……」


 横合いからこちらへと向かって来る、白馬に乗った王子様の姿を見つけた僕は、そう独り言ちたのだった。




「セレーネ様と一緒にこうやって草原を駆けるのも久しぶりですね」


 白馬に跨り、颯爽と僕の斜め前を走るのは、特徴的な碧い髪を揺らすエリアス。

 突然現れた彼は、僕を誘って、以前も来たことがあるあの絶景が見える崖まで行こうと提案してきた。

 これまで数々のあんな出来事があった後だ。

 なんとなく、彼の目的がわかって、僕は黙って首を縦に振っていた。


「今の時期でも、まだすすきが残っているものですのね」


 走りながら周囲を見れば、昨年の秋に一面の黄金色だったその場に、今もなおすすきが残っていた。

 とはいえ、その色は褪せ、数もまばらだ。


「枯れ残っているという方が正しいでしょうね。新芽ももう出ていますよ」

「あっ、本当ですわ」


 よくよく見れば、枯れたすすきの根元には、新たに緑色の短い葉がちらりと見えている。

 年をまたぎ、新しい命がまた、育ちつつあるということか。


「植物を育てるのは気を遣うでしょう?」


 一瞬、ん? と思ったが、すぐに気づく。シーダの苗の事だ。


「はい、なかなか思うようにはいかないもので……」


 実際のところ、ここ数日の成長速度は異常だった。

 特に丁寧に世話をしているつもりはないのだが、茎がどんどん伸びている。

 それどころか、ついにはつぼみらしきものまでポツポツとつき始めた。

 本来、聖花が大きく花開くには、3か月の期間が必要である。

 しかし、僕の苗は、まだひと月弱しか経っていないというのに、もう立派に開花してしまいそうだ。

 何が原因かは、はっきりとはわからない。

 考えられるとすれば、僕の白の魔力がなんらかの作用を及ぼしているということだが……。


「動物はともかく、植物については門外漢なもので。気の利いた助言もできませんが、やはり植物も生き物。構ってあげることが一番かもしれませんね」

「そうですわね」


 と、生返事を返しつつも、あんまりちゃんと世話してないんだよなぁ、とは言えない。

 うん、でも、確かにそうだよな。

 試験の是非は置いておくにして、エリアスの言う通り、植物の一つの生き物だ。

 なれば、全うに手を掛けてあげなければ、可愛そうというものだろう。


「エリアス様の言うように、もう少し構ってあげることにしますわ」

「それが宜しいかと。ふふっ、セレーネ様に手を掛けてもらえるなんて、その苗がうらやましい限りです」


 そんなことを言いながら、楽しそうに微笑むエリアス。

 うん、やっぱり僕への好感度マックスな気がする。

 また、されてしまうのだろうか。告白……。

 心の奥底にある期待感を努めて意識しないようにしつつ、僕は、白馬に乗って駆けるエリアスの背中から視線をずらすと、ひたすらに広がる草原の風景を眺めたのだった。

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